蝶 の 夢

第一章  蝶々のルイさん

2013-07-31 16:23:59

 

有間さん、もう南ちゃんのところへ戻ったかなあ。

・・・それにしても、凄かったな。今思い出してもチキン肌立つわ。

 

磐代の浜松の前で、有間さんが歌を詠んだ時、突風が吹いて、辺りの木がワッサワッサなったやろ。そしたら空に龍の雲が現れて、鳥さんたちも飛んで来て・・・。

小鳥は大合唱するし、空では 鳶がピーヒョロ~って鳴くし、海鳴りがゴオォォーってするし。

 

《磐代の~ 浜松が枝を引き結び~ 真幸くあらば~ また還り見む~》

 

この歌、万葉集に載ってるんやなあ。

ハハッ、僕が詠んでも蝶々が一匹飛んできただけやヘ(゚∀゚*)ノ。

 

「万葉集にはね、有間皇子の歌に続けて、皇子を偲ぶ歌も幾つか載ってるねんで。柿本人麻呂なんかは、わざわざ磐代まで来て、歌を詠んではるねん。」

《後見むと 君が結べる磐代の 小松が末(ウレ)を また見けむかも》・・・by柿本人麻呂

 

へぇ~、有間さんて、当時から人気者やったんやな。ちょっと違う・・・か?(^o^;)

 

ところで、なあなあ如月ちゃん、さっきから蝶々が一匹僕らについて来てるやろ。ほら、あの黄色いかわいいの。どうしたんやろ?何か言いたいことでもあるんかな?

 

蝶々さん、どないしたん?僕らに何か用でもあるのんか?

 

「アタクシはルイ。」

 

うわあっ!蝶々が喋ったで。

 

「失礼でございますわね。アタクシは、蝶々でもあり、猫でもあり、姫でもありますのよ。」

 

ごめんごめん。で、猫でもあり、姫でもあるって、どゆ意味?

 

「ちょっと、説明が難しゅうございますけど、聞いていただけます?」

 

もちろんや!なあ、如月ちゃん。

 

「そうやで。何か事情があるんやろ?私らでよかったら聞かせてもらうよ、留さん。」

 

如月ちゃん、勝手に漢字を当てはめたらあかんで!その字やったら『トメさん』やんか!

ごめんな、ルイさん。如月ちゃんは時々わざとこんなボケかますねん。

 

「ま、まあ・・・よろしゅうございますわ。」

 

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というわけで、その時ルイさんが語った話は、ちょっと不思議な話やったんやわ。

 

ルイさんは、眠ると猫の夢を見るらしい。

優しい奥さんとお嬢さんにかわいがられてる、飼い猫なんやって。僕よりちょっと色の濃ゆいトラ猫らしいわ。

そんで、猫のルイさんが眠って夢を見ると、蝶々になってるねんて。

今、僕らと話してる蝶々のルイさんは、猫のルイさんの夢の中らしい。

そんで、もっと不思議なんは、蝶々のルイさんと猫のルイさんが、共通で見る深い夢があって、その深い夢の中では、ルイさんはお姫様になってるという話やねん。

どう?僕の説明、わかる?

 

「だいたいそんな所ですわ。玄さんは説明がお上手ですわね。」

 

おおきに。そんで、や。ルイさんの悩みは、本当の自分がどれかわかれへんという事なんやな。

蝶々のルイさんが経験している今が現実で、猫が夢なんか。

猫のルイさんが経験してる方が現実で、今が夢なんか・・・。

おまけに、姫の夢は一体何なんか・・・と。

 

「そうでございますの。姫の夢では、アタクシ、名前がわかりませんの。姫・・・と呼ばれていることと、後はぼんやりとした風景しか思い出せませんのよ。猫の夢と違って、それはそれは深い夢でございますの。とっても古~い記憶のような・・・。」

第二章  牟婁の湯

2013-07-31 22:37:06

 

そっかあ、名前がわかれへんのかぁ。ほな、ルイ姫というわけではないかもしれへんねんな。

 

「そうやね。もしその姫が古~い日本の姫やとしたら、ラ行で始まる名前は有り得へんな。」

 

如月ちゃん、それ、どういう意味?

 

「うん、古い日本語では、ラ行で始まる言葉がないねん。別に昔の日本人がラリルレロの発音ができへんかったわけやなくてな、2音めとか3音目とか、最後とかには普通に使われてるねんけど、言葉の最初の音だけ、なぜかラリルレロがないっていうか、ラリルレロで始まる言葉がないねんな。」

 

ふうん、ほな、ラーメンとかロウソクとかって、元々日本語やなかったってことやな。

 

「そうやね。6世紀ごろに、日本に仏教が伝来して、その時一緒に漢語も入ってきたと考えられてるわ。漢語、つまり中国語やね。漢語が大量に入ってくるまでは、日本語にラ行で始まる音は無かったっぽい。」

 

6世紀って言うと、有間さんの時代よりまだもうちょっと古い感じ?

 

「うん、『丁未の乱』っていう崇仏派と廃仏派の闘いがあったのが587年。廃仏派の物部守屋が負けて、仏教が大きく取り入れられたんやわ。聖徳太子の時代やね。そのあと天武天皇と持統天皇あたりから、本格的に全国に仏教を広める動きが始まって、奈良の大仏とか国分寺とか、国の政策の一環みたいに仏教が広められたと思うわ。有間さんの時代はそこへ行くまでの過渡期のころかな。」

 

そう言えば、有間さん、こう言うてはったな。『僕の場合は神や仏に祈ったんじゃない』とかって。

 

「そうやね。わざわざ神道って言われるようになったんは、仏教が伝来してからやと思うねん。仏教に対しての神道って言うんかな。それまでは、敢えて神に祈るとかって言わへんかったかもしれん。古代の日本では森羅万象みな神やから。」

 

ほな、現代人が言うてる神様っていうのんは、古代の日本人の感覚とは違うものを指してるかもしれんのか?

 

「多分ね。随分ズレがあるのと違うかな?」

 

古代か~。『行け!古代』って、宇宙戦艦ヤマトかい!・・・ごめん、ついワルのりしてもた・・・(^▽^;)

ルイさんが、古~い日本の姫やとすると、ルイ姫という名前ではなさそうやな。

 

「きっと古い古い昔だと思いますわ。なんとなくですけど、そんな気がしますの。」

 

 

 

そうこう言うてるうちに、牟婁に着いたみたいやで。ほら、あそこに『西牟婁郡白浜町』って看板出てるわ。

 

うっわあ~!キレイな海やな。

砂浜がめちゃめちゃキレイやで。来て良かったなあ、如月ちゃん。

有間さんも言うてはったな。美しいところやって。

そんで、温泉がまた、ええねんて。

僕は猫舌、猫体(ネコカラダ)やから、温泉はパスするけど、如月ちゃん、入ってきてええで。

あっちに露天の温泉あるみたいやから、あそこまで砂浜歩こか。

 

・・・うーむ、どうにもこう・・・砂の上歩いてると・・・催すわぁ。

あー、砂、かきたくなるわぁ。

掘ってもええかな。

 

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あー、スッキリ♪

 

うん?如月ちゃん、何してるん?砂の上にべったり座りこんで・・・。

あれ?寝てるんか?

 

「げ・ん・さ・・ん・・・、眠い・・・」

バタッ! ZZzz....

 

如月ちゃん、どないしたん?

こんな所で寝たらあかんやろ!

ルイさんは?・・・

ルイさんも如月ちゃんの肩の上で羽根をたたんで寝てるわ。Oo。。( ̄¬ ̄*)

ハハアン、わかったわ。如月ちゃん、ルイさんの夢の中に入ってるんやな。

僕も入ろうかなって、如月ちゃんのポケットから、大事な鍵が落ちてるやんか。

これ、そのままにしておくとヤバイな。でも、僕の手では拾ってあげられへんし。

そや、穴掘って、埋めとこ。目が覚めてから掘り出したらええわ。

砂に穴掘るの、得意やし♫ 埋めるのも得意やし♪

うん、これで良し!

ほな、いざルイさんの夢へ・・・と。 

第三章  猫のルイさんとルイ姫

2013-08-01 14:08:28

 

おおぉぉっ!あのトラ猫ちゃんが、猫のルイさんやな。

かわいいやんか。で、なんで背中にマグロしょってるねん?

あー、飼い主の奥さんと、オモチャのマグロで遊んでるんやわ。

楽しそうやな。

「マグロ、取ったどぉ~!」とかやってるし。

天真爛漫って感じやな。実に心なごむ光景や・・・。

あ、猫のルイさん、あくびしてる。これはもうすぐ眠るな。

 

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如月ちゃん、如月ちゃんおるか?

ルイさんが深い眠りに入りそうやで。僕らも潜ろ。

これ、相当深そうやから、迷子にならんように、僕にしっかりついてきてや。

 

如月ちゃん、見えるか?ほら、女の子が二人おるやろ。

 

「見えてるで。あの二人のうち、どちらかがルイさんやね。」

 

木陰で座ってる方の女の子、メチャべっぴんさんやなあ。触れなば落ちんとは、あの子みたいなん言うのんかな。

そんで、蝶々追いかけて遊んでる方、明るい笑顔で元気いっぱい。美人というのとはちょっと違うけど、かわいいやんか。僕はあの子の方が好きかな。テヘ・・・。

 

「あの天真爛漫さ。間違いなく、ルイさんはあっちの走りまわってる方の子やね。」

 

うん、間違いないわ。雰囲気が同じやもん。

あー、(・。・) 風景が薄れていく。夢から覚めるんやわ。

 

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「玄さん、如月さん、起きてくださいませ。アタクシ、アタクシ、思い出しましたのよ。すべてを思い出したのでございますの。」

 

なんやて?思い出したんか?

 

「ええ、アタクシ、アタクシ・・・。」

 

よほど辛いことがあったんやな。泣いてええよ。話はゆっくり聞くから。 

第四章  イワナガ姫ちゃん

「アタクシは磐長姫という名前でしたの。石、岩のように永遠に生きるという意味で名付けられましたのよ。」

 

それって、木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)のお姉ちゃん違うの?

 

「ええ、あの木陰にいたのがアタクシの妹、木花咲耶姫ですわ。花が咲くように繁栄することを願って名付けられましたのよ。美しい妹でございましょ?アタクシとは大違い。」

 

そんな、人と比べたらアカンよ。磐長姫もスゴクかわいいと僕は思うで。

 

「さっきの夢で、玄さんが、アタクシの方が好き・・・と言ってくれて、それでアタクシの冷たく閉ざした心が氷解したのでございますわ。」

 

いやあ、照れるわ(〃∇〃)ポリポリ

 

「アタクシと妹は、ニニギの尊(ミコト)に嫁ぎましたの。」

 

ニニギって、天孫?アマテラスの孫やろ?日本の国ができる頃の話やんか。確かに古いわ~。

∑ヾ( ̄0 ̄;ノ

 

「アタクシの父、大山祇神(オオヤマツミ)は、ニニギの統治する日本の国が、岩のように長く永遠に、花が咲くみたいに美しく繁栄するようにと、そんな願いを込めてアタクシと妹の二人をニニギに嫁がせたのですの。だけど、アタクシを見たニニギは、ブサイクな女はいらん!と言って、アタクシを追い返したのでございますのよ。」

 

ニニギって男は見る目ないなあ。イワナガ姫ちゃんのどこがブサイクやねん゛(`ヘ´#)

楽しそうに走り回ってる姿はメチャかわいいで。

 

「アタクシ、妹のようにおしとやかではございませんから、それも気に入らなかったのでございましょ。」

そんで、イワナガ姫ちゃんはおうちに帰ったんか?

 

「他に行く所もございませんもの。・・・父は、戻ったアタクシの落胆ぶりを見て、すんごくニニギのことを怒って、呪いの言葉を吐いたんですの。磐長姫を受け入れなかったニニギの国は、短命になるだろうと。でも、アタクシは別にニニギのことが憎かったわけでも、妹の木花咲耶姫に嫉妬したわけでもございませんのよ。ただ、ただ悲しかっただけですの。そのまんまのアタクシではダメなのだと思って。そのまんまのアタクシのままで楽しく暮らせないことが辛かっただけですの。」

 

そうやったんか・・・。辛かったな。

 

「アタクシは、そのあとしばらく床に伏せて、それからスサノオの息子、八島士奴美神(ヤシマシヌミノカミ)に嫁ぎましたの。だけど、アタクシの心が癒されることはありませんでしたわ。人からは『木花散姫(コノハナチルヒメ)』などと呼ばれて、からかわれていましたもの。おまけに、ニニギの子孫が本当に短命になってからというもの、アタクシの呪いだとまで言われて、魂を鎮める歌まで詠まれてしまいましたの。

《我が君は 千代にましませ さざれ石の 巌(イワオ)となりて 苔のむすまで》

ヒドイでございませんこと?呪ったのはアタクシではありませんのに。アタクシはただ、普通に愛されたかっただけですのに・・・。」

 

ちょっと待って。その歌、『君が代』に似てるで!

イワナガ姫ちゃん、話の腰折ってごめんな。僕、ちょっとひらめいたことがあるねん。でも、そのことは後で話すわ。続きを話して。

 

「ありがとう、玄さん。アタクシ、魂が浮かばれないまま鎮められたものですから、苦しくて苦しくて、蝶々になってさまよいましたの。そして、ある日ルイさんという猫を見つけましたのよ。ルイさんの暮らしぶりは、アタクシの望みそのものでしたわ。明るくて、元気で、何をしても、何もしなくても、可愛いって言ってもらって、存在そのものが愛されていましたの。蝶々になったアタクシは、ルイさんの夢に入り込み、ルイさんの生活を自分の生活のように体験していましたの。そうこうするうちに、アタクシ、自分が誰であったのかを忘れてしまったのですわ。」

 

そういうことやったんかぁ・・・。

ほな、猫のルイさんと蝶々のルイさんは元々別人格やってんな。

蝶々のルイさんは、本来イワナガ姫ちゃんで、猫のルイさんと波長が近くて、夢に入り込んでいた・・・というわけか。確かに似てたわ。元気で天真爛漫で、ピュアな感じがそっくりやで。

イワナガ姫ちゃん、思い出せて良かったな。

 

「アタクシが本当のルイさんでしたら、どんなに幸せでしたかしら・・・。でも、思い出してしまった以上、アタクシは磐長姫。自分の幸せをつかまなければ・・・。」 

第五章  二本の柱、それぞれの表と裏

2013-08-01 17:06:36

 

うん、そやな。イワナガ姫ちゃんはイワナガ姫ちゃんや。蝶々の姿でもそれは変われへん。

そこで、や。僕が思うにな、あの歌がキーなんちゃうかな。あの歌でイワナガ姫ちゃんの魂が自由にならへんように縛ってるんかもしれへん。

イワナガ姫ちゃんは、ルイさんの暮らしを猫として経験して、幸せとか、愛するとか愛されるとかを充分知ってるはずやねん。自分のいいところも。そやから、歌の呪縛さえ解けたら、イワナガ姫ちゃんは、もう好きなだけ自由に自分を幸せやと思えるのんと違うかな。

僕がひらめいたのは、まだ確信はないねんけどな、あの歌が、今の日本の国歌『君が代』の元歌なんちゃうかということやねん。

如月ちゃん、調べてみてよ。きっと見つかるはずやから。

 

「あー、あるある、あったわ(・。・)。『古今和歌集』巻七の賀歌の一番最初に載ってるわ。」

 

《我が君は 千代にましませ 細石(サザレイシ)の 巌となりて 苔のむすまで》 題知らず、詠み人知らず・・・

 

「選者、紀貫之が独断的に選んだみたいやね。それがだんだん書き換えられて、『君が代は 千代に八千代に~』に変化したみたいやわ。」

 

やっぱりな・・・。紀貫之は、古い神代(カミヨ)の時代の磐長姫の話を知ってたんやろな。

賀歌って、祝賀の歌なんやろ?

紀貫之は平安時代の人やんか。その時代に『我が君』と言うたら、天皇のことに決まってるわな。天皇の世が、さざれ石が固い岩となって、苔がはえるほど、千代も続きますようにっていう意味になるやんか。古今和歌集の賀歌のトップにふさわしい歌やわな。

そやけど、本来の意味は違う。磐長姫の呪いだか怒りだかを鎮める歌やという話や。

もし、紀貫之がその事を知った上で、賀歌のトップに選んでるとしたら、謎以外の何物でもあれへん。知らんかったというのは考えにくい。題も作者もわかれへん歌を、日本最初の勅撰和歌集の、しかも賀歌のトップに、不用意に据えるわけがない。

天皇というたら、ニニギの子孫やろ。万世一系なんやから、少なくとも建前上はそうなってる。

で、磐長姫はニニギに追い返されて、スサノオの息子に嫁入りしてる。その息子の名前が『八島士奴美神』。やしましぬみのかみって、すごい名前やなって、さっき聞いた時に思ってん。

『八島』はたくさんの島・・・つまり日本列島かな。『しぬ』は死ぬやろ。『み』は、実か身か美か・・・。

つまりな、僕が言いたいのんは、この日本は、表のニニギの系統と、裏の八島士奴美神の系統の二本柱で成り立ってるんと違うか・・・ということや。

もっと言うと、見えてる世界の裏を木花咲耶姫が支えて、見えない世界の裏を磐長姫が支えてる・・・表の裏と裏の裏があって、ニニギが表の表で、表の裏が木花咲耶姫、裏の表が八島士奴美神で、裏の裏が磐長姫。二本の柱は、それぞれに裏を持ってるんかもしれへん。

 

「なるほどな。この世の見えてる世界は、ちょうど花が咲いては散るように、人もまた生まれては死に、時代も栄えては衰える。その繰り返しで時は流れ、進んでるけど、見えない方の世界は、ダイヤモンドや水晶のような鉱物が結晶を作るように、より大きく、より固く成長しているということかもしれへんね。時の流れ方が違うんやわ。」

 

うん、そやねん。そしたらな、表の表、ニニギの子孫の天皇に祝賀を贈る歌として、裏の裏、磐長姫に捧げられた歌を持ってきたということは・・・、紀貫之は、この世は表の表だけやない、表の裏もある、裏の表もあって、裏の裏もあって、それらに支えられて存在していることを忘れたらあかんでって後世に伝えたかったんと違うやろか。

 

「うーん、あまり露骨には言われへんことやからなあ。ヘタしたら不敬罪で処刑されるかもしれんし。そこをじょうずにそぅっと忍ばせた・・・か。まさか、それが後の世に日本の国歌になるとは、貫之さんもビックリやろなあ。」

 

いやいや、如月ちゃん。紀貫之はそれくらい読んでたかもしれへんで。いつか後世で、もっとものが自由に言える時代が来たら、誰かこの謎を解いてくれ~って。 

第六章  蝶の舞

2013-08-01 20:18:13

 

あのな、イワナガ姫ちゃん。僕が思うにはな、あの歌は、イワナガ姫ちゃんの魂を鎮めるための歌とは違う気がするねん。イワナガ姫ちゃんは、長い間とっても辛い思いをしてたし、周りからも色々ひどいことも言われてな、ニニギの国の人が短命になったんはイワナガ姫ちゃんが呪いをかけたからやとか、木花散姫とか笑われたりとかしてな、ほんま、悲しかったと思うねん。そやからあの歌も、自分に対するイヤミのように受け取ったんと違うかな。素直な気持ちであの歌を詠んだら、やっぱりな、『我が君は~』って、イワナガ姫ちゃんのことを大切に想ってる人から出てきた言葉やないかな。

 

「ああ、玄さん・・・。確かに、アタクシもそんな気がしてきましたわ。ええ、そうですわね。アタクシにも楽しかった頃の思い出がありましたわ。妹と、日がな一日遊んでいた頃・・・。素直な気持ちがよみがえってきましたわよ。」

 

イワナガ姫ちゃんは、元々素直なええ子やから。

 

「ありがとう、玄さん。アタクシ、なんだか急に元気が出てきましたわ。妹に、木花咲耶姫に会いたくなってきましたの。アタクシ、妹を探しに行きますわ。今までずっと、自分のことばかり考えていましたけど、妹も、きっと、淋しい想いをしていたに違いありませんもの。」

 

そうやな。妹さんも喜ぶわ。

 

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「最後に、お二人に見てもらいたいものがありますの。」

 

なんやろ?見せて。

 

「蝶の舞ですわ。アタクシからお二人へ、感謝の気持ちを込めて舞わせていただきますわね。その舞が終わったら、アタクシ、妹を探しに行きますわ。心を込めて舞いますから、どうかご覧になってくださいませね。」

 

うんうん。こちらこそ、おおきに。

 

いやあ、キレイやわあ。

美しいわあ。

イワナガ姫ちゃん、かわいいでぇ。

o(゜∇゜*o)(o*゜∇゜)o~♪

♪(*^ ・^)ノ⌒☆パチパチパチパチ

 

ふっ・・・

あ、消えた!

チリ~ン♪

如月ちゃん、砂の上に鈴が落ちてる!

 

「これ、イワナガ姫ちゃんからのプレゼント違う?どれどれ・・・、玄さんの首につけてあげるわ。」

 

チリン チリーン♪

どう?似合ってる?

 

「似合ってるよ~。」

 

イワナガ姫ちゃんも粋なことするなあ。アハハ。

 

「って、玄さん、目が潤んでるけど?」

 

泣いてへんで!砂が目に入っただけやからな。

 

「また強がって~。」

 

そや、如月ちゃんのポケットから、あの鍵が落ちてたから、僕、砂の中に埋めておいたんやったわ。

掘り出さな。ちょっと待ってや。

あった、あった。もう、落としたらあかんで。ファスナー付きのポケットに入れときや~。

さあて、温泉に入ろうか。僕も、手と足だけ浸けてみるわ。

如月ちゃん、行こう!

 

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。

 

これにて、《蝶の夢》はおしまいです。

この先、イワナガ姫は妹の木花咲耶姫に出会うことができますかどうか、南海道中栗毛猫、次回からのお話の中で明らかになりますことを、今、ほんの少しだけ示唆するにとどめておくことにします。

長い旅路の途中、出会いが出会いを呼びながら、二人の旅はまだもう少し続きます。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

なお、友情出演として、猫のルイさんに登場していただきました。ルイさんとの出会いがなければ、このお話が生まれなかったこと必至です。末尾になりましたが、ルイさん、そしてルイさんの飼い主さん、どうもありがとうございました。


キヨヒメの里へと続く