第一章

 そろそろ本題に移らせていただこうと存じます。

 我が紀氏一族は、気を調える役割を担っておりました。いえ、気を読み取る力が他より優れていましたので、勝手に役割だの宿命だのと思い込んでいたに過ぎません。ただ、当時はそのような考え方がごくありふれたものでございました。

 中には、気を操り司る事が出来ると勘違いした者もおりまして、お舘様もそれは苦労をなさいました。土佐の任務に赴いたのもそれが故にでございました。

 元来、気というものは、その時代の機械が生み出し廻らせるものでございます。我々人間はその時代の気を具現化し、生活様式やら思いのあり方に形を与えてゆくものと私などは聞いておりますが、困った事に、自分や自分の身内、子孫つまりは血縁の事しか考えられない人々も、あの頃にはたくさん現れました。

 それも『血』の持つ性質の裏の側面でございまして、時代の移り変わりの中で、ある程度予想はされていたものでございました。血で血を争うなどという、馬鹿ばかしい主権争いは、本来の血の意味を知る者が少なくなるほど、過激さを増し、その勢いは私ども一族にも手に負えず・・・いえ一族の中でさえもう秘伝を体感出来る者が少なくなってしまっていたのでございます。

 

 

 秘伝とはただの口伝とも違い、物事の継承のみならず体感をも伴い代々伝えゆくものでございますが、その体感を得られ、且つ正当な口伝を持つ者がどうやら私が最後のようでございました。私は死後もこの世にとどまり、直接的な働きは出来ぬものの、人の世の移り変わりを見て参ったのでございます。それは、私の意思というよりは、お舘様の願いでございまして・・・、お舘様は男でありましたから、いくら女を装った文を日記に残そうとも、死後までその真意を伝える事は叶いませぬ。お舘様から授かった技法で、後の世に生まれるあなた様を探し、私の記憶をあなた様の夢に映す・・・というのが、私の死後の役割となったのでございます。

 私が探すべきは、紀氏の血を受け継ぎ、名前の中に『紀』の字を持つ者が条件でございましたが、その条件を満たす者ならいくらでも見つかるものでございます。更に『紀』の字は音が大事でございまして、『き』という音の響きを体に宿すことのできる・・・つまり紀氏の「霊統」を継ぐ者でなければなりません。それが、あなた様であったということでございます。

 

 

 気と申しますのは、その時代時代の機械が生み出し廻(メグ)らせるものでございまして、原初の機械は原始的な土地に根ざす気を生み出しました。人間で申せば赤子のようなもの。未発達ではあるものの、純粋な気でございましたでしょう。やがて気が廻りきると、次の機械が古い機械に、あたかも歯車が噛み合うように組み合わされて、新しい気を生み出し、人間がそれを呼吸するように取り入れて次の時代を築いてゆくのでございます。そのように次々と機械が敷きつめられ、古い機械も止まる事なく、時代が移り変わってきたということでございます。

 その原初の機械に最初に息吹を吹き込んだのが『血』であったと伝え聞いております。その血が続く限り、太陽は東から西へと空を廻り続けると・・・。これが先にお話した日の丸の意味するところでございます。

 機械と申しましたが、むろん目に見えるものではございません。言葉で説明するとあのような表現になってしまいますが、本来ならば、これらの話はすべて私の記憶の印象として、あなた様に夢でお渡しする手はずでございましたが・・・。予想だにせぬ出来事が起きたのでございます。それはもう、半ばまどろんでいた状態の私が、一気に目を覚ます程で・・・。

 

 

 それは時空震でございました。いえ、時空震そのものは、時代の変わり目にその兆しとして起こるもので、さほど珍しいものではございません。言わば、気が世を回り切り、新しい機械が付け加わる時の衝撃のようなものでございます。

 ところが、この時の時空震は勝手が違いました。何やら哀しい叫びのような切ない響きを私は感じたのでございます。私は慌ててその調べに耳を傾けました。

 丁度、皇室で輿入の儀を執り行いあそばされる最中の事でございました。輿入なされた娘の名に『紀』の字が入っていらっしゃいます事は存じておりましたが、それは取り立てて気にする程でもございますまいが、どうにも胸騒ぎが治まりませんで、より慎重に調べを読み取ってみましたところ、とんでもない事が分かって参りました。

 原初の機械に息吹を送りこんだ最初の血、最も古い血の螺旋がほどかれ出しており、土台となる原初の機械が止まりかけ始めておるのでございます。この世はいつまでも続くものではなく、血が全く別のものに刷新される時、機械の回転も止まり、すべて崩れ去り、新たな原初の機械が生まれると聞いております。それが新しい太陽の世であると。

 急がねば・・・。1日も早く記憶を受け継ぐ者を探さねば。


続く