2013-07-11 16:13:29
車中で待っている夫と娘のことが気になったが、もう少し健太から話を聞いておきたい、と百合子は思い、椅子に腰掛けた。客がまた一人入ってきて、野菜を手に取って見ている。
三人目の客が入ってきた時、思わず百合子は立ち上がった。
「春江おばさん!」
「あら、百合ちゃんじゃない!」
客は、百合子の母の妹、春江という女性だった。
「久しぶりねえ。」
確かに久しぶりだが、健太ほどでもない。母の法事で、引っ越した後も何度か会っているからだ。
百合子の父は、妻の死後、百合子を連れて親元に帰ったが、百合子が高校2年の時に再婚をした。再婚相手に連れ子がいたためもあり、父は別に家を構え、百合子は祖父母の家に残った。そんなこともあって、百合子は、母方の親戚とはだんだん疎遠になり、行き来することもなくなっていたのだ。
「せっかく会ったんだから、ウチに寄っていってちょうだい。」
春江伯母は、百合子の母とは対照的に明るく社交的な性格だった。百合子は、ふと、(ここで会ったのも何かの縁に違いない)と思い、伯母の家に行くことにした。夫も賛成してくれるだろう。
健太の店で、キャベツと人参を買い、健太にリンゴをおまけしてもらって、百合子は叔母と一緒に八百屋を後にした。
夫と子供が車で待っているのを知ると、春江は
「ぜひぜひ、三人で家に来てちょうだい。すぐそこだから。昔と場所が変わってるけど、車が入り易いところだから。」
と言って、自転車のカゴに買い物袋を乗せた。
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伯母の家についた時、子供がぐずったので、持参したオムツを取り替え、母乳を飲ませた。
ごく一般的な挨拶と世間話のあと、夫はさらりと、今日なぜこの土地にやってきたのかを叔母に向かって説明した。百合子は少々驚き、ためらったが、夫の判断が正しいと思った。ぐずぐずしていても埒が開かない。偶然叔母に出会ったのには必ず意味があるはずだし、偶然を偶然で終わらせるのはもったいないとも思った。
こうして、百合子は、自分が知らなければならないこと、知った方が良いことのいくつかを、叔母の口から聞くことができたのだった。
伯母が語った話は、百合子が今まで誰からも聞いたことのない話だった。驚くべき内容とも言えたが、逆に色んなつじつまが合う事で、納得のいく話でもあった。叔母も、まさか、その日そんな話の展開になるだろうとは夢にも思っていなかっただろうが・・・。