三度の救い

2013-06-25 13:23:28

 

 あるところに、一人の信心深い男がおったんじゃと。

 男は、それはそれは熱心に神を敬い、神棚に手を合わせ、来る日も来る日も神のご加護を祈り続けておったということじゃ。

 ある日、男の住む村に洪水が起きた。村の者たちはみな、高台に逃げようとしたんじゃが、男は自分の家から離れようとせんでのう。

「早う逃げなされ。」

「一緒に逃げよう。」

そんな風に誘ってくれる者たちも大勢おったんじゃが

「いやいや。私には神様がついている。神様が私を救ってくれる。」

男はそう言って、皆の誘いを断ったそうじゃ。

 水かさは増し、男の家も川に浮かぶ船のようになってきた。男は屋根に上り、神に祈ったそうじゃ。

「神様、どうぞ私をお助け下さい。奇跡を起こして下さい。」

 すると、そこへ・・・一艘の救命ボートが来て、レスキューの人がボートの上から男に声をかけたんじゃ。

「お~い!このボートに乗りなさ~い。まだあと一人乗れるぞ~!」

じゃが、男の返事はこうじゃった。

「いやいや、私のことは放っておいてくれ。私は神様に救ってもらえるのだから。」

救命ボートは行ってしまった。

 いよいよ屋根にも水が上がってきて、男はますます熱心に神に祈ったんじゃ。

「神様、奇跡を起こして下さい。」

 すると、そこへ・・・ヘリコプターが飛んできて、またまたレスキューの人が、縄梯子で男を助けに降りてきたんじゃ。

「さあ、これにつかまって!」

 ところが、男はその手を振り払い、

「私には神様の奇跡が~・・・」

と叫びながら、押し寄せてきた大水に飲み込まれ、とうとう流されていったそうじゃ。

 

 さて、結局は命を落とした男じゃったが、無事に天国に召されたということじゃ。そこが天国であることに気付いた男は、さっそく神のところに走っていったんじゃと。

 そして、神を見るやいなや、開口一番にこう言ったそうじゃ。

「神様!神様は、こんなに信心深い私を、なぜ救ってはくれなかったのですか?!」

それを聞いた神は、実に困った顔をして、ため息をつきながら答えたそうじゃ。

「何を言う。三度も救いの手を差し伸べたではないか・・。」

 

お・し・ま・い

 

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