2013-08-05 07:42:37
僕らは、お爺ちゃんの家でもう一泊して、ゆっくり休んでから帰ることにしてん。お爺ちゃんとリキ(紀州犬)が、道が見えるところまで送ってくれて、まだまだ人里まではほど遠かったけど、一つの分かれ道があるところでサヨナラすることにした。
「どちらの道を選ぶかの?」
お爺ちゃんが言うた。リキは、かしこくお座りして、クウンって言うて首をかしげた。
僕は如月ちゃんを見た。僕はどっちでもええねん。如月ちゃんは、随分迷ってるみたいに見えたわ。
「地図が・・・、もうこの先の地図がないんです。頭の中にあった地図の終点はお爺ちゃんの家やったみたいやから、この後はもう自分の家に帰るだけやと思うんですけど・・・。」
そこで、如月ちゃんは、ちょっと言葉をつまらせた。
「もと来た道を戻るべきか、もっと前に進んでから、裏側を抜けるように戻るべきか・・・。」
お爺ちゃんは何も言わずに如月ちゃんの言葉を待ってる。僕も待つことにした。
「・・・同じ道を戻って、もう一度南ちゃんや有間皇子にも会いたいとも思うけど・・・。でも、また新しい出会いも楽しみやし・・・。うん、決めた。こっちにするわ。もと来た道を戻るより、前に進んで裏側から抜ける道を選んでみる。お爺ちゃん、ありがとう。」
「うむ、そうか。それもよかろう。ならば、この磁石を持っていきなされ。今までは地図に沿って鍵を開きながらここまで来たんじゃったのう。ここから先は地図がない。どこまでも突き進めばいずれお前さんらの懐かしい家に戻れるじゃろうが、道を誤れば樹海に迷い込み、そこで朽ち果てんとも限らん。この磁石は方位磁石じゃ。じゃがの、北という方角を示すわけではないのう。お前さんらの帰る道、方向を示す磁石じゃ。必ずしも安全な道を示すとは限らんが、間違いなく帰る方向を示してくれる。この先、何度も岐路に立つじゃろうて。その度にこの磁石を取り出してみるのじゃ。決して立て看板などに惑わされてはならんの。」
お爺ちゃん、凄いもん持ってるなあ。
「これはの、リキが昨日山で拾って咥えてきたんじゃよ。わしらが夜通し語り明かした後、昼寝をしたじゃろ。その間にの。最初は何やら、わしにもさっぱりわからんかったが、リキが教えてくれたのじゃ。リキの意識がわしの中に流れ込んできての。不思議じゃの。女の如月さんには♂の猫玄さんが、男のわしには♀の犬リキがついておって、互いに助け合い教え合う関係じゃ。男の中に女が住み、女の中に男が住む・・・。男は男、女は女と決めつけなければ、色んな不思議も起きてくるのかも知れんの。」
ああ、うん、分かる気がするわ。肉体としての男と女が助け合ってる時、心の中では男の中の女と女の中の男が助け合ってるかもしれんし、肉体としての男と男が助け合ってる時も、心の中では、女と女や男と女が助け合ってるかもしれんのやな。女同士の場合でも同じや。そんで、見た目とは違う中身の組み合わせのパターンっていっぱいあるんやな。そういう事に気づいていったら、不思議な事も自然と現れてくるんかもしれん・・・そういう事やな、お爺ちゃん。
「そういうことじゃ。不思議な現象は、型にはまることを嫌うということじゃ。」
そんで、その方が自然やし、楽しいということやな。
「そうじゃよ。ワッハッハー。二人とも、元気でのう。」
わんわん▽・w・▽
「おじいちゃんも、リキもお元気で。ありがとう。」
(=^0^=)
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僕らは大きく手を振って、サヨナラした。僕と如月ちゃんはまた旅を続ける。僕らの懐かしい家に戻るために、もと来た道を選ばずに、裏側からそこへと戻るために。
リキとお爺ちゃんからもらった磁石をしっかりと手にして、前へ前へと進む。前は、いつか僕らの家へと向かう帰路でもあるんや。
《 『南海道中栗毛猫』・・・完 》
長い間、玄さんとの旅のお話にお付き合い下さって、ありがとうございました。
なお、《うぐいすの宿》の話の中で、玄さんがうぐいすになるという箇所がありますが、実際には、梅の木にうぐいすがとまることはまずないということを知り、この後に、その辺の事情も加味して、《再開と別れの合図》という物語を書きました。
『南海道中栗毛猫』とは直接的な関係はありませんが、もしよろしければ、そちらもご覧いただけると嬉しいです。