窓辺にふく風

10編の詩を載せています

2014年3月20日現在

朝焼けの風

朝焼け色の風にのせて

あなたの窓辺に届けよう

 

目覚めたとき

微笑みとともに 私を思い出せるよう

 

まだ眠りの中にいる あなたに

朝焼け色の歌を

届けよう

2013/7/31 

そびえ立つ木を

トゥリー  

と、英語圏の人たちは呼ぶ

高く高く、上へ上へと成長する音・・・トゥリー

 

ドイツの人たちは

木の中に、年輪を見て

その木が育った歳月に思いを馳せるのかもしれない

だから、ドイツ語で

木は、バウム・・・

 

私たち日本人は

木を「き」と呼ぶ

大気の「き」、気持ちの「き」

木の周りには、ふんわりと癒しの風が漂う

・・・気がする

 

トゥリー・・・正面から見上げた音

バウム・・・木の内部にかくれた年輪の音

キ・・・人も獣も植物も、みんながもってる心の音

2013/8/24

極楽橋

夫と連れ立って

極楽橋を渡っていた時

彼女は

見知らぬ老婆に 声をかけられた

 

「わてら、今から、極楽ゆきまんねん」

着物をきた 小さなお婆さん

 

「へえ~、そんで、この橋、『極楽橋』って言うのんか・・・」

彼女がそう答えると

後ろから夫の声がした

「なにひとりごと言うてるねん?」

なに?って、おばあさん・・・おるやろ?

「おばあさん?・・・どこにおるねん?」

夫には老婆が見えていない様子

しかし、

「ほら」

と、彼女が指さした先には

もう 誰もいない・・・

 

十年ひと昔と言うが

それはもう、ふた昔も前のこと

時は流れ、その流れのなかで

母が逝き、夫が逝き

幼い頃に生き別れた父親が、すでにこの世にいないことも知った

 

今朝

橋の上で、そんなことをふと思い出す

今年最初の秋の風が

私の耳元を吹き抜ける

 

   わてら、今から、極楽ゆきまんねん・・・・

2013/9/5 

そらみみ

どこからか

音楽が聞こえてくる

どうやら、それは

北の窓から

風にのって

運ばれてくる

ストリングスと女性コーラスの

ゆったりとした調べ

 

初めて聞くメロディ

美しいハーモニー

 

もっとはっきり聞きたくて

外に出てみたが

ドアを開けた瞬間

・・・音が消えた・・・

 

家の中に戻ると

また聞こえる

しばらく、一緒に口ずさんでみる

 

かすかな

かすかな響きは

やがて、風の中に消えていった

 

空耳?

ソラミミ・・・

2013/9/6 

黒い翼

自宅前の道路で

車を発進させようとして

エンジンをかける

ルームミラーに

大きな 黒い翼のようなものが 映った

上方からふんわりと

まるで、大きなカラスが 舞い降りてきたみたいだった

 

黒いゴミ袋が、風で飛んできたのか?

いや、違う

 

あわてて車を降り

後ろを確かめた

 

何もない・・・

 

確かにミラーに写っていた

黒い影は

何だったのだろう?

 

そう言えば・・・

と、思い出す

 

前にもあったな

何もないはずの駐車場で

木箱にタイヤを当てたような感触と

バコンという音

あの時も、車を降りて確かめたけれど

やっぱり何もなかった

 

ささいなことだけど

たいして 不思議でもないことだけど 

気持ちのどこかに 残ってる

黒いつばさ

2013/9/7

 

空洞

胸のあたりから

急に、何か空気のかたまりのようなものが押し上げてきて

喉を通り

私のあたまを思いっきりふくらませ

バチン!

と裂けた

耳に衝撃が走った

そして、

からだ中の皮膚がざわざわとする

 

今度は腹のあたりから

また何かが押し上げてきて

喉でピカっと光ったあと

あたまがパンパンに膨らみ

大きな爆発音がした

 

数回

そんなことがあり

私のからだは

空洞なのかもしれない

と、思った

2013/9/7 

誰でもない

だれでもないわたしが

だれでもないあなたと 言葉を交わす

 

まるで、森のなかの

樹間をわたる風のように

自由に行き来する ふたつのこころ

 

家名に縛られず

肩書きに規定されず

血に祝福もされなければ

呪われもしない

 

そんなふたりの会話は

ほかのだれでもない わたしと

ほかのだれでもない あなたとの

たましいの交歓

2013/9/7 

夏のわすれもの

なにか忘れている気がして

自転車を走らせた

太陽が 海に沈むまで

あと少し、もう少し・・・

 

心なしか軽くなった 潮風をうけて

海岸通りを走る

 

ビーチサンダル

麦わら帽子

風鈴のおと

かき氷

 

夏がおいていった、八月の記憶

 

なんの変哲もない

(本当はとっても大切な)

君からのメッセージが

そんな記憶の砂浜に、うもれている

 

太陽が

夏の光のすべてを 海に沈めてしまう前に

急いで 見つけ出すんだ

キラキラきらめく波にのせて

必ず君に届くように

 

ありがとうの言葉をそえて

夏のわすれものを

今、届けに行くよ

2013/9/10 

地球はなぜ丸い?

地球はなぜ、まるい?

それは

みんなで手をつないだら

はじまりも おわりも

なくなるから

 

地球はなぜ、まわる?

それは

みんなで空をあおいだら

上も 下も

なくなるから

2013/9/11 

Will you dance?

「あなた」は、「わたし」のなかに

「わたし」は、「あなた」のなかに

それぞれの分身を放り込んだ

 

その分身が

君と僕

 

だけど、分身の本体は

いつも

相手のうしろにいて

相手の目をとおして自分を見る

そして、

相手の腕をとおして

自分を抱きしめる

 

僕の本体は、君の背後にいて君をみまもり包み込む

君の本体は、僕の背後にいて僕をみまもり包み込む

 

僕が君を求め

君が僕を求めると

「あなた」と「わたし」がまわりだす

 

そうしてできた渦が

銀河のはじまり

 

僕の本体・・・本当の僕は、いつも君の背後から僕を見ている「わたし」

君の本体・・・本当の君は、いつも僕の背後から君を見ている「あなた」

つまり、世界は

僕と君を除いたすべて

そして、世界は

君と僕がいるから踊る

2013/9/13