蛇の姫

第一章  キヨヒメの寺

2013-07-25 17:28:14

 

如月ちゃん、あちこちにポスター貼ってあるけど、何?あれ。

大蛇と釣鐘の絵、描いてあるで。

 

ふうん、『道成寺会式』やって。

 

なになに・・・、25mの大蛇が、逃げる安珍を追いかけて、

道成寺の62段の石段を駆け上がり、釣鐘の中に隠れた安珍を、

釣鐘に巻きついて焼き殺すところを、再現したイベントらしい。

 

へぇ、4月27日かぁ・・・って、もうすぐやんか。

見てみたいな。

 

そや、如月ちゃんの探してるお寺って、ここちゃうのん?

行ってみよ!

 

おぉ、この石段かぁ。下から見上げるとなかなかのもんやな。

これを大蛇が駆け上がるねんな。

 

このお寺、立派やなあ。しかも、相当古そうやで。

うわぁ!701年建立って、奈良時代に建てられてるんやわ。しかも、文武天皇の勅願って、なんか、凄いな。

『新西国三十三箇所観音霊場』・・・国宝の千手観音もあるらしいで。

 

あ、あそこで住職さんがお話してる。紙芝居みたいやわ。

如月ちゃん、行ってみよ。

絵巻物語やって。安珍清姫の話みたいやで。聞きに行こか。

 

良かった。今始まったばっかりや。

 

住職さん、お話上手やなあ。いい声やし。

・・・・・・ふうん・・

・・・なんか、安珍さんもかわいそうやけど、清姫さんもかわいそうやな・・・。

って、如月ちゃん、寝たらアカンやろ!

あぁ、もう眠ってるわ・・・。

 

どないしょう・・・。つついても起きへんし。

 

あれ?なんか、普通に眠ってるのとは違うみたいやな。

どれどれ、僕も如月ちゃんの夢の中に入って、如月ちゃんが何してるのんか見てみよ。

ZZzz....

 

なにー(’◇’)?

夢の中で、如月ちゃん、美しいお姫様と話してるで。さっきの絵巻の清姫みたいやな。

なるほどぉ。これって、巷で言うチャネリングちゃうのん?

如月ちゃんにもできるんやあ。ほぉ~、びっくり!

それにしても大丈夫かなあ?

僕も、そう~っと見てようっと。

 

第二章  キヨヒメ

2013-07-25 19:06:39

 

そなたは何者ぞ?

そなたには、わらわの声が聞こえるのじゃな。

 

わらわの姿が、おなごに見えておるのか。・・・これは驚きじゃ。

これまでにも、わらわを見た者はおるが、皆わらわを蛇じゃと言うておったの。

 

ほっほっ。

面白い。そなた、しばしの間わらわの話を聞いてはくれぬか。

わらわはもうすぐ、あの砂の渦の中に飛び込まねばならぬ。

ほれ、あの砂じゃ。ぐるぐる回っておろ?

あの真ん中の穴を抜けていくのじゃ。さすれば、もうここには二度と戻れぬ。

今、そなたに会えたのも、何かの縁じゃろうて。

そなたさえ良ければ・・・わらわの話をどうか聞いておくれでないか。

そうか、聞いてもらえるか。有り難きことじゃ。お礼申し上げる・・・。

 

さて、何から話そうかの。わらわはここで千年以上も生きておる。

いや、生きておるのか死んでおるのか、わらわにも分からぬが。

・・・そうじゃ、わらわが人間であった時の事から話そうぞ。

 

゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆

 

わらわは名をキヨと申す。

清姫じゃ。あの『娘道成寺、安珍清姫』の、清姫じゃ。

伝えられておる話は少々嘘も混じっておるがの。

 

そう言えば、さっきそなたの後ろに、何やら安珍殿に良く似た影がちらりと見えたような気がしたが、気のせいか・・・。

懐かしゅうござるな。

なにゆえあのような結末になってしまったのか、今では悔やむばかりじゃ。

 

そうか、そなたは『安珍清姫』の話を知っておるか・・・。ならば話が早い。

安珍殿に恋焦がれ、叶わぬ想いに己が姿を大蛇に変えて、安珍殿を追いかけ、追い回し、その魂を捕らえ、巻き付き、怨みの炎で我が身もろとも焼き尽くした清姫の話を。

あれが、あの行いの全てが、わらわを今のような蛇の姿に変えたのじゃ。

・・・おお、そなたにはおなごの姿に見えておるのじゃった。忘れておったぞ。

 

この千年もの間、人にはなれず、蛇の妖怪として、人間のおなごの心にとり憑き、乗り移ってきたものじゃから。

清い女の心も、わらわがとり憑けばひとたまりもない。恋に執念を燃やす、醜い女となる・・・。

かわいそうな事をしたものじゃて。

じゃが、わらわはおなごの心をもてあそんだわけではないのじゃ。そのようなふざけた気持ちは微塵もござらぬ。

人間にとり憑いている間は、ただただ必死なのじゃ。懸命なのじゃ。

安珍殿を慕う気持ちが、他の何物をも見えなくさせるのじゃ。最も大切な安珍殿の命さえも忘れてしまうほどにのう。

何度繰り返したか分からぬ。

どんな清い女にとり憑いたとて、その女の心にわらわが住み着いておる限り、似たり寄ったりの結末となる。

わらわはここで、生きもせず死にもせず、そのような事ばかり繰り返してきたのじゃ。

 

されど、それもようやくおしまいじゃ。

わらわも人間としての命を頂くこととなった。

なに、わらわの意思もそうであったが、この度は神界からの仰せじゃ。

なんでも、人間の世界が一区切りつくとかいう話じゃ。

この機に応じて人間となり、生きておるのやら死んでおるのやら分からぬ妖怪どもも、人としての人生を全うせよとの仰せじゃった。

 

ほれ、もうすぐあの砂の渦が、わらわの足元にまで広がり及ぶ。さすれば、わらわには抗うことさえできぬ。

砂に引き込まれ、渦を通って、新たな命となり、人の世に生まれ出づる手はずじゃ。

 

そうじゃ、そなたに一つ頼みがある。この鍵のことじゃ。

わらわは人間界に生まれる前に、今までの記憶が失われてしまうのじゃ。

この鍵はの、その記憶を呼び覚ますための鍵じゃと聞いておる。

わらわが持っていても、どうせ記憶を無くすのならば、何のための鍵であったかも忘れるであろ。

 

そなたにこの鍵を託そうと思う。

いや、気にせずとも良い。

もしもそなたが、人間となったわらわを見つけたならば、その時にこの鍵を渡してくれれば良いのじゃ。

 

これで思い残すこともなくなった。

そなたが声をかけてくれるまで、実を言うと心細うての。

人として生きることに、自信がなかったのじゃ。

また、あのような醜い真似をしてしまいはせぬかとな。

そなたは希望じゃ。この闇の中で、ほのかな灯をわらわに与えてくれた。

 

まこと、気にせずとも良いて。

何もわらわを探し当ててくれと申しておるのではない。

もしも、もしもじゃ。人間界のどこかで巡り会ったならば、必ずやそなたはわらわに気づくであろ。

その、もしも・・・で良いのじゃ。

もう砂がわらわの腰まで寄せてきた。そろそろ別れの時じゃ。

 

ところで、そなたの名をまだ聞いておらなんだ。

そなたは一体、何者ぞ?

如月どの・・・か。覚えておきたいが、そうもいくまい。

わらわのつまらぬ話を、最後までよくぞ聞いてくださった。

鍵のことも、どうかよろしくお頼み申し上げる。

さらばじゃ。 

第三章  髪長姫

2013-07-25 21:21:39

 

如月ちゃん、起きてぇ!

もう、絵巻物語終わってるで~。

 

ほら、住職さん、心配そうにこっち見てはるやんか・・・。

他のお客さんも、広間から出て行かはったで。

 

「う~ん、玄さ~ん。私、変な夢見てたわ。」

 

知ってる。清姫とお話してたやろ。

僕も、如月ちゃんの夢に入って、見させてもろたで。

 

「あ~、それでや。私の後ろに安珍殿に似た影が見えるとかって清姫が言うてたんは。」

 

それ、僕のこことかいな?安珍殿って・・・。

男前に見えたんやな。ちょっと嬉ぴいかも(///∇//)テヘ

 

「そんでな、清姫が消えたあとも、また夢見ててん。」

 

何?それは知らんかったわ。

僕はあのあとすぐにこっちへ戻ってきて、住職さんの絵巻物語聞いてたさかいに。

 

「なんかな、髪長姫とかいうのも出てきてん。」

 

あ、それ、絵巻物語の途中で、CMみたいに挿入されてた話やで。

 

「それ、どんな話やったん?」

 

あのな、昔々、この辺りの土地に、髪の毛のない女の子がおってんて。

そんで、その子の親は漁師やってな、海の底で金色に光る観音様やったっけ。仏像を拾うねん。

その仏像にお祈りしたら、女の子の髪の毛がものすご~く伸びて、その髪の毛を鳥がついばんで奈良の都の貴族の家の木にまで飛んでいくねん。

その貴族が、この長~い髪の毛の女の子を探せ~!ってなってな。

そんで、その子は都の貴族の家の養女になって、のちのち天皇の妃になって、その女の子は髪長姫って呼ばれるようになったらしいで。

日本版シンデレラみたいやな。

そんで、ここにお寺を建てることになったんやて。

髪長姫が産んだ息子が次の天皇になったっていう話や。

つまり聖武天皇のお母さんって、この辺の女の子やってんな。

・・・で、如月ちゃんはどんな夢見たん?

 

「あのなあ、よくは覚えてへんねんけど、とにかく髪長姫が出てきたんは覚えてる。それで、なんか知らんけど、キシの里とかいうところに誰かと行くねん。って言うか、行こうとしたところで、玄さんに起こされたんやわ。」

 

ふうん。面白いな・・・って、ウソやで。

ちょっと愛想言うてみただけヾ(@^(∞)^@)ノ。

それよりな、僕、思ったんやけど、なんでこんな田舎の漁師の娘が天皇の母になれたんやろ?不思議やわ。

なんぼ奈良時代やからって、こんな田舎の漁師の娘はないやろ。

 

「ああ、その話な。藤原不比等っていう貴族にな、髪の長い娘がおって、宮子っていうねんけどな。文武天皇の后になって、聖武天皇を産んでるねん。でも、まさか、その宮子がこの田舎から藤原氏の養女になってるっていうのは、正史にはないと思うで。ただ、そう言えば、文武天皇が牟婁の湯に行幸に行った時に、紀州の田舎で女の子を見初めたとかって話は、どこかで読んだ記憶があるわ。案外、その髪長姫の話、本当なんかもしれへんね。」

 

ああ、そう考えたらつじつまが合うわ。

 

「どういう事?」

 

あのな、安珍清姫の絵巻物語の途中で、ほんま、唐突に『髪長姫』の話が挿入されるねん。

おかしいなと思ったんや。

もしかしたら、本当に伝えたいのは「髪長姫」の方の話で、でも、あんまり大っピラには言われへんから、「安珍清姫」の話の間にちょこっと入れてるんかもな。

言うてみたら、「安珍清姫」は「髪長姫」の隠れ蓑になってるって感じ。

で、さっきから気になってたんやけど、如月ちゃんの右手に握ってる、その鍵、どないしてん?

まさか、夢の中で清姫に渡された、あの鍵なんか?

 

「あ、ほんまや。気がつけへんかったわ。うわ~、どないしょう。」

 

物質化現象やな( ̄▽+ ̄*) 

サイババみたいや( ̄Д ̄;;

 

「しゃあないわ。清姫に預かった鍵やし、とりあえず、清姫の生まれ故郷にでも向かって旅を続けようか。」

 

清姫の生まれ故郷って?

 

「牟婁の湯から、山の方に入っていく中辺路とかっていうところやったと思うで。ここからは、まだまだ先やわ。とりあえず、南へ向かうとするか。」

 

了解!

 

 

 ゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆

 

そんなこんなで、僕らは道成寺の山門を下りて、まっすぐ南へ向かったんや。そうそう、帰り際に住職さんが僕にって、美味しいカマンベールチーズ食べさしてくれてん。優しい住職さんやったわあ。

 

この先、まさかの出会いがあるとは、このときの僕らは夢にも思ってへんかった。

ほな、次は古墳のそばでな。

見にきてちょ。待ってるわな~。

 

古墳に立つ少女に続く