2013-06-25 09:08:05
昔むかし、あるところに、二人の若い修行僧が旅をしておったそうな。
一人は真面目な男で、毎日の勤行を欠かさず、仏法を固く守り、旅の間も厳しい修行に明け暮れていたそうな。
かたや一方の修行僧は、のんびりと風景を楽しみ、行く先々の村で、村人たちとも気さくに会話し、酒も振舞われれば飲むし、魚もいただく始末であったそうな。
ある時、川の前で二人は立ち止まった。
その川には橋がなく、渡し守もいない。おそらく、普段はチャポチャポと、くるぶしまでを濡らす程度で歩いて渡れるほどの川であったのだろう。その日は、昨夜の大雨のせいか、川は濁流に渦巻いておった。
しかし、少しばかり上背のある男なら、腰まで浸かることを覚悟さえすれば、なんとか向こう岸に渡れそうに見えた。
真面目な男は、細長くヒョロリとした体型で、まあ、何とか渡りきれるだろうと判断した。一方の男は、背も高く、ガッチリとした体型で、ラクラク渡れると見えた。
さて、二人が脚を川に踏み入れようとすると、後ろから一人の娘が声をかけてきた。
「あのう、お坊さん方、わたくしも向こう岸まで行きたいのでございますが、なにせこの濁流でございます。今日のところはおよしになられてはいかがでしょうか。今日はよく晴れておりますゆえ、明日になら、きっと川の水も引き、楽にお渡りになれるでございましょう。」
真面目な方の修行僧が応えた。
「ご心配には及ばぬ。我々の体であれば、この程度の川、流されることもござるまい。」
一方の修行僧が言った。
「ほう、娘ごよ、そなたも向こう岸に渡りたいのでござるのか。ならば私と一緒に渡ればよかろう。」
そう言って、男は、キョトンとする娘を抱きかかえ、ジャポジャポと川に入り、そのまま向こう岸まで渡ってしまったそうな。
真面目な修行僧は、心の中で、「なんと不届きな奴。女を抱きかかえるとは、仏教僧にあるまじき行為。」と、ぶつくさ文句を並べ立てながら、後を追って川を渡ったそうな。
向こう岸まで無事渡り終え、男の腕から下ろしてもらった娘は、何度も頭をさげ、こう言った。
「ありがとうございました。実は、病の母に薬を届けようと、あちらの村から急いで帰ろうとしていたところでございます。わたくし一人では、渡ることはかないませんでした。お陰様で助かりました。」
「それは良かった。一刻も速く、母上に薬を届けなされ。」
娘は、またもや礼を言い、かけていった。
面白くないのは、真面目な方の修行僧。頭の中では、相方への非難が、さっきの濁流よりも強く激しく渦巻いたまま。
一方の男は、何一つ意にも介さぬ様子で歩みを進めていく。しばらく歩く内、とうとう、真面目な男が口火を切った。
「全く、おぬしは修行の旅を何と心得る!たとえ人助けとは言え、オナゴを抱きかかえるとは。」
その言葉に対して、一方の男の返事は次のようであったそうな。
「そなたは、まだあの娘を抱えておったのか。ハハハハ。」
その言葉の意味を、真面目な男が理解したかどうかは、伝えられておらぬそうな。
お・し・ま・い