旅 立 ち

2013-05-30 08:10:14

 

 僕の名前は玄。源氏の「源」やなくて、玄武の「玄」。みんな玄さんって呼んでる。栗毛のトラ猫、玄さんや。如月ちゃんと二人で旅する栗毛猫。

 それにしても、如月ちゃんがけったいなタイトルつけたから、十返舎一九はん、怒らはるやろ。僕、不安・・・。どう考えても『東海道中膝栗毛』のパクリやんなあ(汗)。もう、汗かくわ。

 ま、中身は何の関係もないということで、一九はんのファンの皆様、どうか勘弁してやってちょ。

 

 

 一年ぐらい前やったかな、僕と如月ちゃんの家に、一本の電話がかかってきてん。なんでも、家中の配線工事させてほしいとかいう内容やったわ。

 あんまり突然やし、理由もようわからんから、如月ちゃんは断って、その電話を切ったんやけどな。またすぐに同じ人から電話があって、今度は泣きすがるように言われたんやて。

「お願いですから、配線を変えさせて下さい。」って。

 若い女の人の声で、どっかのめんどくさいセールスの電話とは全然違う感じで、すっごく真剣で、切羽詰ってるみたいで、その声は今までに聞いたことがあるような気もしたらしい。

 でも、やっぱり如月ちゃんは、納得のいかん話やから断り続けてる内に、玄関からどやどやと男の人が三人入ってきてん。あれには僕も驚いたわ。チャイムも鳴らさへんで、こっちがどうぞとも言うてへんのに勝手に上がり込むねんで。失礼な人らやなぁって。

 

 そんで、如月ちゃんはまだ電話中で、僕がニャアゴゥって応対したけど、その人らは天井見上げて、どんな風に配線工事するか話し合ってるねん。如月ちゃん、慌てて電話を途中で切って、

「あなたたち、何ですのん?」って男の人たちに怒って言うたんやわ。

 そしたらな、その人ら、全然悪びれた様子もなくて、

「この家の配線工事に来ました。」って、にこやかに言うねん。

「もう決定済みのはずです。電話連絡もいってると思います。」って。それ、どゆ事?

 その後、如月ちゃんは色々質問して、ようやく納得したんやけどな。

 なんでも、僕らが住んでた家は古い家で、これまで色んな人が住んできたために、たくさんの配線がごっちゃごっちゃに絡まってたらしいねん。んーとな、わかりやすく言うと、前に住んでた人が使ってたコードを、次に住んだ人が不要で、きれいに取り除かへんまま新しいコードをつないでいったり、古いコード同士を適当につないだり・・・そんな事が何代も何代も続いて、とうとう訳がわからんぐらいに絡まってしまってたみたいやねん。

 コードって言うても、電化製品のコードやなくて、目には見えへん人間関係とか、人と人の縁みたいなもんかな、人だけやなくて動物とか植物とかモノとか、それこそ色んなものとの縁って言うか・・・。僕は猫やから、その辺のところ、よく分かるねんけど、人に説明するのは難しいわ。何となく分かってちょ。

 

 そんでまぁ、如月ちゃんも何となく分かったみたいで、納得して配線工事してもらうことになってんな。如月ちゃんに必要なコードだけ残して、いらないものはきれいに切って取り除いてもらう、残したコードもええ加減なつなぎ方とか、切れかかってるのとかをちゃんとつないでもらう事になってん。

 ところがな、問題が一つあって、工事するのに何ヶ月もかかるらしくて、その間、ほこりもするし、食事もできへんぐらいやって言われてな。それで如月ちゃんが考えたのは、友達の家に居候させてもろて、この際ついでに家のリフォームもしてもらおうという事やったんやわ。

 

 それがな、次の日の朝起きたら、如月ちゃんがいきなり大掃除始めて、そんなん、これからリフォームで壁とか天井とかもつぶすのに、なんでっ?て聞いたら、

「玄さん、旅に出るよ!」って。何それ?

「昔の人は旅に出る前に家の掃除をしたんやて。」

 いやいや、聞きたいのはそこやないって。でもな、僕も猫やから、如月ちゃんの考えてる事までは分からんけど、感じてる事はだいたい分かるから、旅もええかぁって、ついて行く事になったんやわ。だいたい、如月ちゃんについて行けるの、僕だけやろうし。

 

 まぁ、旅では色々あったわ。僕は三毛猫になるし(すぐに元に戻ったけど)、妖怪退治はするし、清姫とチャネリングして鍵を預かるし、その鍵のおかげで有間皇子さんに出会うし・・・なんと言うても、僕が思い出深いのは、イワナガ姫ちゃんとの出会いやなぁ。最後に見せてもろた『蝶の舞』は、今思い出してもうっとりするわぁ。イワナガ姫ちゃん、もう妹の木花咲耶姫を探し出せたかな。なんか、いい思い出がいっぱい出来たわ。これも、如月ちゃんについて旅に出たおかげやな。

 

 うん、まだまだ旅は続くねんけど、どこに行くのか僕にはわかれへん。如月ちゃんの頭の中には地図があるらしいねんけど、目では見えへん地図やから、行ってみんとどんな所か分かれへんのやって。

 いずれは元の家に戻る予定やけど、その時はきっと見違えるようなステキなお家になってるとええな。僕の好みも言っておいたら良かったな・・って、BFORE AFTERかいっ!。

 そんなこんなで、僕と如月ちゃんの南海珍道中

 どうぞみなさん、応援(∩´∀`@)⊃よろしくお願いいたします。

 

ここから先は黄泉の国へ続く