白猫タマに会いにきて

16編の詩を載せています。

2014年3月20日現在

STAN GETZを聴きながら

ラジオから流れる

STAN GETZの『Dear Old Stockholm』

初めて聞いたのは30年近くも前のこと

慌てて録音して

何度も何度も、何度も聞いた

  

こんなにも懐かしいのは、なぜ?

この哀しみは、いったい何?

わからないまま時は過ぎ

このごろ何となく

響く・・・の意味がわかってきた

 

 それは最初から

私の中にあったもの

いつか必ず出会うもの

会えばそれとわかるもの

 

 記憶は

断片などではなく

光の道筋

過去という名に覆われて

見えなくさせられていた

本当の今

私のすべて

2013/5/19 

チベットから来た少年

少年の祖父は、まだ幼かった息子たちを連れ

雪のヒマラヤを越えた

一緒にチベットを出た仲間の内、幾人かは

インドに辿り着く前に

息絶えたと言う

 

黒い髪

切れ長の目、深い瞳の

紛れもなくチベットの血を引いた

一人の少年が

インドで生まれ、育った

 

英語、ヒンドゥー語、日本語をを巧みに操りながらも

彼の母国語は、チベット語

インドから日本へとやってきた時も

決して、彼は

「インドから来た」とは言わなかった

 

いつか彼が帰る祖国は

チベット

見果てぬ夢の

そのまた向こう

世界の屋根を越えたところにある

彼の母国は

チベット

2013/5/20 

愛の方程式

[わたし]から見た[あなた]が

[わたしとあなた]から見た[わたし]となるような

そんな関係の中に

愛がある・・・

そう言った人がいた

y/x=x/x+y

(x=わたし、y=あなたを代入)

 

x=yへの憧れは

虚無へと引き込む幻影の力

一つになりたいと

どれほど願っても

[わたし]は[あなた]には、なれない

[あなた]も[わたし]には、なれない

 

[わたし]から見た[あなた]は、

決して[あなた]が思っている[あなた]ではないし

[あなた]から見た[わたし]も、

[わたし]が考えている[わたし]ではない

そんな合わせ鏡の回廊を

どこまでも下降し続ける・・・x=yとy=x

 

けれど

[わたし]と「あなた]を結ぶ輪は

まるで、七色に輝く虹のように

空のかなた・・・時間のない場所で

乗り口を地上に開いて、待っている

 

[わたし]が、メビウスの輪のサーキットを走り抜け

[あなた]の側へと回り込み

[あなた]と一緒に「わたし]を見るような位置

そこに存在する愛は

もはや

『愛する主体』と『愛される客体』のような分離はなくて

愛し合う必要さえもない

そこにあるのは

ただ

螺旋状に絡み合い、上昇し続ける

二つの異なる意識の流れ

あるいは

黄金比によって

永遠に開き続ける五芒星の花びら

Flower Of Life

 

   追記;黄金比→1:1.618・・・

      つまり、y:x=1:1.168・・・になるということ

      y/x=x/x+yの式は、x/y=(1+√5)/2となる

      なぜ、xとyの値が異符号になる場合があるのかは

      わからない。

2013/5/21 

WALK ON THE WAY OF LIFE

ざわざわと音を立て

心が灰色に波立つ時

不吉な三叉路に立ちつくし

もと来た道を振り返る

 

道しるべは、いつもあった

どんな時も、必ずあった

だから、今もあるはずなんだ

 

“遠くの山を見ろ

空に浮かぶ雲を見ろ

そして、目前の木立に視線を移せ”

 

その時、僕の視界に

飛び込んできたのは

枝先でさえずる小さな鳥

 

小鳥を見つめる僕自身を

僕はどこから眺めているのだろう

はるか遠くにありながら

最も近くに存在する

もう一人の僕

 

色とりどりの心のありようを

その姿で投げかけているのは

鳥であり、枝であり、木であり

山であり、雲であり、空であり

それらすべてが

風景からの、僕へのまなざし

もう一人の僕が

僕を見つめるまなざし

 

“色を取り戻せ

音を取り戻せ

そして

命の道を歩め”

2013/5/22 

もうひとつの進化論

生物進化は

意識進化の反映

人間の精神進化の影

 

植物と動物の分かれ目は

与えるものと受け取るものの、分岐点

 

無意識の海でまどろむ魚の

ピクンと震えた尾びれが、最初の意識の目覚め

その発露を示す

 

光に憧れ、水から飛び出た両生類たち

闇もまた、彼らの大切な住処の一つだった

 

小さな頭に知恵を抱えた爬虫類たちよ

光の下にありながら、光を忘れたものたちよ

元の闇が恋しいか

その大きく肥大した身体の一部を持て余す・・・

しかし、彼らなくしては

次なる鳥類への進化は

望むべくもなかった

 

やがて大地を蹴り、天空を舞う鳥たちは

虚空を羽ばたき、大気を揺さぶる

その振動は、瞬く間に地球上を駆け巡り

哺乳類を生んだ

 

それまでの、そしてそれ以降の分化に次ぐ分化

あらゆる動物たちの

誕生と成長は

人間の心を、影絵のようにして

僕たちに見せてくれる

 

絶滅しかけていた

ニッポニアニッポン・・・別名『朱鷺(トキ)』は、今日も日本の空を飛び

絶滅したとされていたニホンオオカミも

この国の森のどこかで棲息し続けているに違いない

2013/5/23 

二匹の白い猫

朝早く

外で、激しい猫の鳴き声がした

“喧嘩だ!”

咄嗟にそう思ったが

鳴き声は一匹だけだったし、すぐにやんだ

次いで、隣の犬がけたたましく吠えた

私は庭に駆け出した

我が家のトラ猫も、フェンスに駆け上がり

外をじっと凝視している

その視線の先に目をやると

道路のほぼ中央に、二匹の白い猫

一匹は座り、もう一匹は横たわっている

 

白い綿のように、猫の毛が道路に舞う

座っている方の猫は、二軒隣の飼い猫で

近頃は、まるで野良猫のような様相になっている

隣のおじさんも出てきた

「ああ、あれは××さんちの猫だな。××さん、入院してるんだってよ。認知症だとか言ってたな。

あっちの猫は知らないな。見たことがない。」

 

二匹の猫は、まだ動かない

あのままでは車に轢かれてしまう・・・

私が近づくと

座っていた猫はゆったりと立ち上がり

去っていった

横たわっていた方の猫は

怪我をしている様子はなかったが

おそらく皮膚病なのだろう

全身の毛が薄くなり、ただれた皮膚が見えた

 

私がもう数歩近づくと

その子もそっと立ち上がり

道路脇に停まっていた車の下に隠れて身を横たえた

どこからやってきたのか、初めて見る猫だった

 

もしかしたら

××さんちの白猫は

よそ者の白い猫と喧嘩しようとしたが

相手のあまりの弱さに、途中でやめてしまったのかもしれない

 

振り返ると

我が家のフェンスから

ウチの猫がまだこちらを見ていた

 

それぞれが、それぞれの事情を生きている

人も動物も・・・

時に憤りを感じたり

時に慈しみを感じたりしながら

結局は、どうにもならない事だらけの生を

懸命に生きている

 

悲しい一日の始まりだった

空はどこまでも青く

朝の風は軽やかに、誰もいなくなった道路を吹き抜けていった

2013/5/25 

迎ふる気(変化を待ち受けている生気)・・・『徒然草』第百五十五段より

「春暮れて後、夏になり、夏果てて、秋の来るにはあらず」

そうだよね、そうだよね

僕もそうじゃないかなって思ってたよ

 

「春はやがて夏の気をもよほし、夏よりすでに秋は通ひ・・・」

その通りだと思うよ

嬉しくなるなあ

人工の建築物じゃあるまいし、一旦壊して更地にしなくちゃ次のが建てられないなんて・・・

自然は、そんな不連続な時を刻まないんだ

 

「木の葉の落つるも、まづ落ちて芽ぐむにはあらず、下よりきざしつはるに堪へずして落つるなり」

ほらね、僕の歯だって、そうだったよ

乳歯は、下から大人の歯が押し上げてきて抜けたもの

 

リレーのバトンタッチとは、順序が逆なんだ

次の走者が待っているところまで、懸命に走っていく

そんなイメージは

多分、自然の営みには似合わない

時は、未来の方からやって来る

過去から未来に向けて、僕らは一瞬一瞬を生きてきたように見えたけど

どうやら違う

僕らは、この身で未来から来た時を受け止め

今という瞬間の中に

すべての記憶を保持してきたんだ

この一瞬が、ほんの小さな点のような“今”こそが

僕の生の全てを包む込む、魂そのものかもしれないね

 

「迎ふる気、下に設けたるゆゑに、待ちとるついで甚だ速し」

大きな変化の前の

数々のサインの連続は

未来からやってきているに違いない

 

時計やカレンダーが刻む時間の中に閉じ込められて

決して気付けなかった自然の時の流れを感じてみよう

外に出るだけでいいんだ

爽やかな五月の風のように

命の花の薫りを

時は、届けてくれる

2013/5/25 

夕焼け

向こう岸まで

泳いで渡るには、少し深くて遠すぎる

子供時代の思い出が

今も流れ続ける

ふるさとの川

 

記憶のスクリーンに次々と映し出される光景は

僕の内部を彩ってくれる

大切な宝石の数々

 

太陽が傾き始めると

僕らは堤防に駆け上がり

夕焼けを眺めたものだ

郷愁にも似た寂しさと 満ち足りた想いを

胸に重ね合わせながら・・・

 

西の空をオレンジ色に染めて

夕日が、遠くの工場の煙突の後ろに沈んでいく

心なしか薄まった青い空と

夕日に映えて広がる雲とのコラボレーション

刻一刻と、色と形を変えていく夕方の景色を

僕は確かに、全身で見ていた

ーバイバイ、またねー

ーまた明日!ー

そうやって 僕たちは手を振り

それぞれに家路を急ぐ

魚の焼ける匂いと

ネギを刻む音がする家並みの中へと

 

記憶とは

いつでも全身に蘇らせる事のできる

魂の刻印

たとえ、鍵のかかった抽斗(ヒキダシ)の奥にしまい込んだとしても

僕らはそれを失った訳じゃない

鍵はいつでも僕らの胸の中で

僕らが手にする時を待っている

2013/5/26 

道をたずねる

山手線の内側の

コンクリートの街並みと

アスファルトの道路の上で

人々は、道を尋ねる

「ここに行くには、どの電車に乗ればよいのか」

「何線が早いのか」

目的地を告げ、行き方を尋ねるのだ

 

地下鉄の乗り場へと

人々を飲み込んでゆく、ぽっかりと口を開いた穴が

そこかしこに、その姿を隠すこともなく

待ち受けていて

今日も、誰もかれもが

飲み込まれ、吐き出され

一日が、そんな繰り返しで充満している

 

僕もまた、かつて道を尋ねた

「私はどこへ行けばよいのか」

人が渦巻く交差点で

立ち尽くす一人の若者だった

 

あれから早や二十年

田舎に越してからも

僕はまだ、道を尋ねている

山に、川に、海に

雲に、星に、月に

そして、わがやの猫に

我が内なる猫たちに

2013/6/5 

祈り

それは

ほんの些細な日常の光景に織り込まれ

普段、目にしているのに見えなくさせられ

わたしたちの行いや言葉がけの中にひっそりと身を隠し

自己主張もせず、ただ有り続ける

 

例えばそれは

赤子をあやす母の声に

畑を耕す農夫の汗に

スーパーやコンビニでレジうつ指に宿っている

普段通りに毎日を過ごす、あらゆる人々の行いの奥に

じっと 息をひそめるようにして 待っている

 

特定の宗教の

礼拝のポーズやマントラに

どれほどの威力があるというのだろう

 

今コノ時モ、タエマナク宗教戦争ガ、世界ノドコカデ起キテイル

 

 

いつものように

ただ、いつものように 暮らす生活のすべてが

『祈り』の姿

 

『祈り』は、発見されたがっている

 

「どうか、見えないところを探さないで

見えるところに、『祈り』はあるの」

・・・と

2013/6/9(2014/3/21改)

変換BOX

権力や金力にものを言わせて、自我の欲望を満たすため

人の心の領域までを脅かす

そんな時代の遺物には

早々に退散していただこう

 

これからは心の時代だとか言って

借り物の言葉のパッチパーク

権力や金力と変わらぬ、影響力という支配構造を利用して

善人面で道を説くふり

結局は、自我の欲望を満たしながら

ネットの世界を我が物顔で闊歩する

そんな時代の遺物にも

引導を渡してやろう

 

自戒をこめて言うが

癒す者は、癒されるものであり

見る者はまた、見られる者なのだ

 

己の美学に則りながらも

響く共鳴音が美しいか否か

(己ひとりが美に溺れてはいないか)

時に厳しくとも

その姿勢を崩したくはない

 

外の世界のシンクロは

紛れもなく、あなたと私が背中でつながっている証

だが、勘違いするなかれ

そんな証より、もっと大切な響きを

聞き分け、受け止め、打ち鳴らすのは

己自身であることを

2013/6/23 

真実の羽根マアト

黄色い羽根が

舞い降りてきた

辺り一面モノクロームの景色の中で

その羽根だけが

黄金色に燦めいていた

 

 

アヌビスの天秤は

『マアト』と『ハアト』

の、傾きを量り

釣り合いを見つめる

 

 

エジプト神話

その、平面画の向こうに

幻想をかきたてられ

その、平面画の手前に

真実を垣間見る

手前と向こう側は

別の空間

 

真実の羽根『マアト』は

私のハアトと絵画との間

距離と時間のない空間にある

2013/6/24 

言葉の架け橋

言葉は、心と心を結ぶ架け橋

橋を渡っていくのは

伝えたい気持ちと、その背後に秘められた動機

 

ちょうど、電子が流れる時に

同時に反対側から

電流が流れて

ほのかに明かりを灯すように

本当に伝えたいことが通じた時には

相手の思いもこちらに流れる

 

励ましたいと思って、かけた言葉で

相手のぬくもりが帰ってくる

慰めようとして、かけた言葉が

互いを照らす光となって

相手からも癒されていたことを知る

 

動機の無い言葉は

空虚な廃墟

せっかくかけた言葉も、

こだまのように、崩れかけた壁に反響して

自分に返ってくるだけ

誰をも癒すことなく

誰からも癒されない

 

言霊は

音霊(オトタマ)、数霊(カズタマ)、形霊(カタタマ)、色霊(イロタマ)を

一つに束ねる 一霊四魂

 

言葉が 真に力を発揮するのは

そこに宿ったタマシイが 相手の心に届いた時だけ

2013/7/1 

私は聖者に会ったことがない

私は聖者に会ったことがない

ずっと、そう思っていた

 

転んだ時に抱き起こしてくれた人も

怪我や病気の時に手当してくれた人も

道に迷った時、行く先を指し示してくれた人も

倒れそうな時、宿を貸してくれた人も

みんなみんな

日々の暮らしを懸命に生きる

普通の人だった

 

もしも

聖者がいるとしたら

それはきっと

恐ろしく醜い姿で

私の前に立ちふさがり

脅しをかけてくるか

もしくは

哀れみを醸し出す腐臭を放ちながら

私の前に横たわり

情けを乞うに違いない

そんな聖者も、必要とされる時代は終わったようだ

 

神と悪魔の間に真っ直ぐな線を引き

その中心にコンパスの針を突き刺してみよう

そして

中心点から悪魔までを半径とする円を

くるりと描けば

悪魔と神は、その円周を回りだす

神と悪魔の

どちらがどちらでも構わない世界を観察する主体は

コンパスを手にした

観察者の側にある

2013/7/1

 

愛の天使キューピットは、あなた

あなたが誰かに感謝するとき

あなたは知らない内に、2本の矢を放っている

あなたから相手に向かう矢と

相手からあなたに向かう矢

しかし、

その返ってくる方の矢は、たいてい見えない

ときに、相手からのお礼という形で表に現されることもあるが

返礼を意識した時点で

矢は勢いを失い、落下する

 

あなたが世界に感謝するとき

あなたから世界に向けて、全方位に矢が放たれるが

実は、その裏で

世界からあなたに向かう矢も 同時にあなたは放っているのだ

幸運が舞い込むのは、そんな時

それもまた、

見返りを期待した時点で

全方位に放たれたはずの全ての矢が、落下する

 

あなたと相手

役割を交代してみれば

矢は二つの方向に2本ずつ、合計4つの矢が

勢いよく車輪を回し始める

メルカバー・・・運命の輪

 

あなたと世界

役割を交代してみれば

タロットの21番カード

『世界』が回転し始める

逆位置は、落下の場合

 

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・

 

タロットカード

 

X(10番) 《運命の輪》・・・従来の殻を破る、脱皮、思いがけない変化を                                                            意味する。

   正位置・・・チャンス、転機、問題の解決、運命の出会い

   逆位置・・・くされ縁、マンネリ、同じ事の繰り返し、つまらない

 

XXI(21番) 《世界》・・・・・完成と新たな高みへの出発を意味する。

   正位置・・・完全、完成、理想

   逆位置・・・理想と現実のギャップ、思い通りにならない、マンネリ化

2013/7/6 

かくれんぼの終わり

何処にもいない

誰でもない

名前さえない私を 探して

閉じられたシャボン玉の内部で

かくれんぼに 明け暮れた日々

 

シャボン玉の中に浮かんだ景色は

外の世界が映りこんだ幻影

 

すすき野原に すっぽり隠れて

膝を抱える五歳(いつつ)の私

 

やっと見つけた

こんな所にいたんだね

 

あの頃に見た

山も、川も、町並みも

高い煙突の向こうにたなびく 夕焼け雲も

私の記憶のすべてが

私自身・・・

私のすべてだった

 

醜くて、忘れてしまいたいと思っていた心の裏側に

こんなにも美しい夕日が映えていたなんて

知らなかった

これが私だったなんて・・・

 

もう、抗い続けなくていい

隠れていた私は見つかったから

 

拙い言葉を手放して

明るい日差しの元へ還ろう

仲間たちが待っている所へ

 

大きく手を振り、

呼んでくれる姿が見えるから

2013/7/7