古墳に立つ少女

第一章  南風のみなみちゃん

2013-07-26 14:59:49

 

如月ちゃん、この辺、なだらかな坂が多いなあ。

山というより、丘がずーっと続いてるみたいやで。

 

僕、ちょっと疲れたわ~。ひと眠りできる所ないかなあ?

あ、あの大きな木の辺り、どうやろ?

芝桜きれいやし、小鳥も鳴いてるし。

ちっちゃい山みたいなのあるけど、あの上に誰か立ってるで。

女の子みたいやわ・・・。

スカートひらひら~って、なんか、かわいい子ちゃうん?

ちょっと行ってみよ!

 

あの~、こんにちは~っ!

僕ら、旅のもんですけど、ここでちょっと休憩してもええですか?

 

「どうぞ、もちろん構わないわ。」

 

あの木の下がええなって思ってるねんけど・・・。

 

「あれは、クロガネモチの木。赤い実をついばみに、小鳥たちもいっぱいやってくるの。とっても優しい木なの。あなたたち、お目が高いわね。」

 

まあ、僕は猫やから、気持ちのいいところを探すのは得意やし。

僕は玄さん、こっちは如月ちゃん。

・・・で、君は・・・ミナミちゃんか。

ふうん、東西南北のミナミやなくて、南風のミナミ・・・

って、一緒やんかっ!

そんな所に立って、誰か待ってるのんか?

 

「うん、この下の扉の鍵を持ってる人が来るのを待ってるの。」

 

扉って?・・・

うわぁ!小さな山かと思ってたら、下に降りたら洞窟みたいになってる。

 

「ここはね、古墳なの。中に入るには、この扉を開けないといけないの。」

 

ミナミちゃんは、中に入りたいのんか?

 

「うん。だって、中に有間皇子(アリマノミコ)が一人ぼっちでいるんだもん。」

 

えっ?

 

「ここはね、有間皇子の古墳なの。ずっと前は鍵なんてかかってなかったんだけど、市の教育委員会が管理するようになって、鍵をかけちゃったんだ。重要文化財とかって言って。でね、その時に妙な事が起きたの。」

 

妙な事って?

 

「あたしね、実は・・・あのクロガネモチの木の精霊なんだ・・・。信じる?・・・本当なの。だから、こんな扉、鍵がなくても平気で通り抜けられるはずだったの。なのに、なぜだかわかんないけど、はじかれるみたいに、中に入れなくなっちゃった。時空のブロックが出来たみたい・・・。だからフツーの鍵じゃダメなの。教育委員会の鍵で開けたとしても、それはただ古墳の中に入るってだけ。有間皇子がいるところには行けないの。」

 

ちょっと待って。

有間皇子って、もうず~っと前に死んでるよね。

確か天智天皇がまだ天皇になる前だっけ、・・・中大兄皇子だった頃に、謀反の罪をきせられてって、聞いたことあるで。

 

「そう、絞首刑。だから、有間皇子の魂はずっと怒りと悲しみでいっぱいなの。この古墳に遺体とか遺骨があるわけじゃなくて、魂を封印されてるのよ。」

 

やっぱり無実の罪って、ほんまやったんか・・・。

 

「うん、有間皇子はその時のこと、あんまり話したがらない。『天と赤兄だけが知っている』って、それしか言わないの。きっと赤兄って人に騙されたのよ。」

 

如月ちゃん、ちょっとWikiで調べてみて。

ふうん、なるほどな。中大兄皇子と赤兄って、つながってたんやな。次期天皇の候補として有力な有間皇子を亡きものにしたかったと・・・。

それにしても変やんか。当時、中大兄皇子は既に皇太子やで。

次期天皇の座は確定してるのに、なんでそこまでして、有間皇子を葬らなあかんの?

 

「わかんない・・・。」

 

そや、僕ら、こんな鍵を持ってるねん。

如月ちゃん、あの鍵、ミナミちゃんに見せてあげて。

まさか、この扉は開けられへんとは思うけどな。

 

「こ、これは・・・、マスターキー。」

 

どゆこと?

 

「ある種の時空の扉を開く鍵だわ。」

 

なんやて?!

 

「異空間を開く鍵ってことよ。」

 

えぇ~っ!

 

第二章  時空の扉を開く鍵

2013-07-26 21:56:24

 

ミナミちゃん、それってなんかスゴいな。

まさか清姫から預かった鍵が、異空間の扉を開けるマスターキーとは・・・。

 

「多分ね。ただ、全ての異空間の扉を開けられるわけじゃないわ。ある種の・・・つながりのある異空間だけ。」

 

うーんと、例えば、一つのビルのマスターキーが、隣のビルには役に立てへんみたいなもんか?

 

「そうそう、そんな感じ。」

 

この古墳の扉はどうやろか?

 

「やってみないとわかんない。」

 

開けてみよ。如月ちゃん、鍵、入れてみて。

ガチャン

お、手応えアリやな。

開いた・・・。

うっ、何これ・・・、血の匂いがするで。

真っ暗やな。如月ちゃん、ミナミちゃん、大丈夫?

僕は猫やから見えるけど。

 

「私も精霊だから平気よ。」

 

如月ちゃん、僕の後に続いてな。その内、目も慣れてくると思・・・

ウっ!うわぁっ、この洞窟、血だらけやんか!足元の水たまりも全部『血』やで。

 

「こんなじゃなかったのよ。おかしいわ。何かあったんだわ。アリマー、アリマ、どこー?」

 

あそこに誰かうずくまってるで!

 

「ありま!・・・何があったの?」

「ミナミ・・・。来てくれたのか。もう会えないかと思ってた・・・」

 

(ノ゚ο゚)ノ オオォォォ-、この人が有間皇子さんかぁ。

若いし、イケメンやし、♂の僕でも惚れそうやわ。

如月ちゃん、惚れたらあかんでって、あの~、もしもし、ミナミちゃん、有間さん・・・、そんな熱い抱擁はないやろ。

 

「あ、ごめんごめん。つい嬉しくて。アリマ、この人たちが扉を開けてくれたのよ。」

 

有間さん、はじめまして。僕は玄さん。で、こっちは如月ちゃん。

如月ちゃんが清姫から預かった鍵で、ここに入れたんや。

無事に会えて良かったな、ミナミちゃん。

それにしても、この血だらけの洞窟は何?

 

「玄さん、如月さんとやら、本当にありがとう。ゆっくり説明するよ。おそらく、扉が開いたなら、僕も外に出られるはずだ。一旦外に出てみよう。」

「封印が解けたのね。」

「ああ、多分ね。」

 

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「ふう、やはり外はいいなあ。18歳で絞首刑にされて、魂の自由を奪われて、この古墳の中の異空間に封印されていたんだ。

どれくらい前だろう、ミナミが僕に気づいて遊びに来てくれるようになったのは。

僕はずっと心を病んでいたから、ミナミが来てくれなかったら、発狂していたかもしれないよ。いや、実際、ここのところミナミでさえ扉をすり抜けられなくなってからは、本当に気が狂いそうだった。

一人で色々考えていると、亡霊が現れるんだ。わんさかとね。

この剣でぶった切ってもぶった切っても次々と現れる。

ふと気がつくと、僕が切っていたのは、亡霊ではなく、洞窟の岩肌だったんだ。

血が吹き出して、やっと正気に戻った。」

 

ほな、あの血は洞窟の血?

なんで洞窟が血を出すのん?

 

「うん、ちょっとややこしい話なんだが、僕の推測も混じえて話すよ。

あそこはね、言ってみれば『女性の子宮』の中みたいなものなんだ。

特定の誰かの子宮ってわけじゃない。もっと観念的なものが作り上げた異空間としての子宮さ。」

 

へ~、子宮って、漢字で書くと『宮子』の反対やな。宮子って、髪長姫のことやろ?なんか、寒気がしてきたわ。 

第三章  子宮の洞窟

2013-07-27 16:20:24

 

「僕はね、天皇の皇子(ミコ)として生まれたんだが、生まれつき霊的能力が高かったんだ。小さい頃からモノノケの類(タグイ)はいくらでも見たし。」

 

ほうっ、夏目友人帳みたいやな。

 

「人の心の声も読めた。だから、中大兄皇子が次期天皇になりたがっていた事はよく知っていたし、そんな政権争いなんてまっぴらゴメンだった。彼が僕の父を裏切って都を出ていった時も、僕は何も言わなかったんだ。それでも彼は、もう皇太子になっているというのに、まだ僕のことが気になって仕方ないみたいだったな。僕の特殊な能力を封じ込めたかったんだろう。」

 

そやから絞首刑にされて、魂をここに封印されたんか・・・。

 

「うん、僕もそう思っていたよ。あの血が吹き出すのを見るまではね。」

 

なんやて?他にも理由があるってことか?

 

「ああ、僕はどうやら利用されたらしい。憤怒と悲哀の感情を、うまく使われたのさ。」

 

どういう事なん?

 

「僕は、僕をこんな目に合わせた者たちを憎み、恨んでいた。元々特殊な能力のある僕だから、怒りや悲しみの感情が作り出すエネルギーは半端ない。そのエネルギーを喰らう奴らがいるなんて、思いもしなかったんだ。」

 

エネルギーを喰らう奴らって?

 

「この子宮の洞窟を生み出した奴らだよ。いや、奴らって言っても独立した個人の集まりじゃない。自分の血を分けた子孫に栄華、繁栄をもたらしたいという欲望の塊(カタマリ)みたいな想念の集合体さ。そいつらは、負のエネルギーが大好物なのさ。それをエサにして、次々とくだらない悪巧みをして、政権争いに利用してたんだ。」

 

髪長姫・・・宮子姫も、そんな政権争いに巻き込まれたんかもしれへんなあ。

確か、宮子姫は藤原不比等の養女になって、文武天皇の妃になったんやろ?

 

「そうそう、それで生まれた子供が聖武天皇になって、藤原不比等の実の娘、光明子が皇后になってるねんで。ついでに言うと、文武天皇のお祖母ちゃんが持統天皇で、その父親が天智天皇やわ。」

 

なに?如月ちゃん、それって、なんか引っかかるわ。

天智天皇って、中大兄皇子のことやろ。持統天皇は天武天皇の奥さんやったよな。

如月ちゃん、前に言うてたやんか。小倉百人一首の1番が天智天皇で、2番が持統天皇。皇位継承の順番で言うたら、天智の次が天武で、その次が持統やのに、なんで天武が抜けてるのんか不思議やって。もしかして・・・。

なぁなぁ如月ちゃん、その辺の人間関係、ネットで調べてみてよ。僕、ちょっとひらめいたことがあるねん。

・・・んー、やっぱりや・・・。

中大兄皇子は、自分の娘を二人も大海人皇子に嫁がせてるやろ。もしも自分に何かあった時に、自分の血を受け継ぐ娘が有力者の奥さんとして子供を複数産んでたら、とりあえず一安心やんか。そんで、現実にそんな流れになった。

つまりな、中大兄皇子は首尾よく天智天皇となったけど、病死する。

息子の大友皇子は大海人皇子に倒されて、次に即位したのは大海人皇子、つまり天武天皇や。

ここで、誰でも天智天皇つまり中大兄皇子の血は途絶えたと思う。

がしかし・・・や。

天武には、大田皇女(オオタノヒメミコ)と鵜野皇女(ウノノヒメミコ)という天智天皇の娘が二人も嫁いでるねん。どちらに男の子が生まれても、天智天皇の血を引くという寸法やんか。

そんでな、僕が引っかかったんは、天武の死後に奥さんの鵜野が女帝として即位して持統天皇になってることやねん。

おかしいやろ。天武には、大田が産んだ大津皇子という、かなり有力な後継者がおったのにも関わらずや。

大津皇子は、鵜野に無実の罪を着せられて自殺してはるねん。

それで鵜野の息子の草壁が皇太子になるけど、若死にしてしもて、そのまた息子の、鵜野にとっては最愛の孫やな、その孫をどうしても即位させたい。そやけど、あまりに幼すぎる・・・そこで鵜野は、中継ぎとして自分が即位して時間稼ぎして、孫が大きくなってから孫に皇位継承するんやな。

その孫っていうのんが、文武や。宮子の・・・髪長姫の夫やわ。

 

僕はな、持統の執念が凄まじいと思ったんや。

息子や孫を即位させるために、大津を自殺に追い込んだり、自分がとりあえず女帝になったり・・・それが本当やとしたらな、そこまでして我が子や我が孫を天皇にしたいという執念が、恐ろしいなって。

それやのに、せっかく持統が凄まじい執念で天皇にしようって思ってるのにな、草壁も文武も若死してるねんな。

もしかしたらなあ、文武の妃に髪長姫が選ばれたんは、強い血が欲しかったんちゃうやろか。そやから、こんな田舎の娘が異例の妃になってるんかもしれへんで。

宮子には、何か特別な血が流れてたっていうか、血筋的に古代につながるような血統やったと考えられるかもな。

 

話を元に戻すけど、有間さんが、知らずとエネルギーを与えてしまった、この洞窟の子宮は、子孫を異常に溺愛する想念のかたまりやとしたら、持統は、まさにそれに取り憑かれてたんやろう。

その想念の基礎を作ったのが天智で、後を継いだのが持統。

そやから、百人一首の選者は、その辺の事情を知っていて、わざと天武を飛ばしたんと違うかな。選者は藤原定家やろ。不比等の子孫なら、知っててもおかしくないわ。

どう?僕の推理・・・。

 

「そうね、考えられないこともないわね。実はね、一つ言っておくと、この古墳は有間の墓じゃないの。死んだのもここじゃない。元々ここは強い気を発する場所なの。」

 

えっ?それ、どういうことなん?

 

「有間はね、ここよりずっと北にある藤白という所で処刑されて、墓もそこにあるの。だけど、魂を封印する場所をわざわざここ、黄泉の入口近くにしたのは、やっぱり有間の力を更に増幅して利用しようとしたんじゃないかしら。」

 

なるほどな、如月ちゃんでも僕を三毛に変えられたぐらいやったもんな。

ここは、そんなに凄い土地なんか?

 

「ここ、というより、ここは始まりの土地で、ここから南ね。理由はわからないけど、土地そのもののエネルギーが高いと思うわ。植物がよく育つもの。」

 

猫としての僕の感想やけどな、そのエネルギーって、良い意味でも悪い意味でも強い気がするわ。

都会の人間には、多分キツ過ぎて却って疲れるんちゃうかな。

温泉に入りすぎて疲れることもあるみたいに。

 

「そうかもしれないわね。」

 

 

それにしても、有間さんの処刑を命じたのが中大兄というのはわかるけど、ここに魂を封印したのは誰やろ?

中大兄にそんな力があったんか?

 

「多分、中大兄皇子とつるんでいた中臣だ。あの氏族は、元々そのような術をよく使う一族だから。」

 

ははぁん、中臣鎌足と言えば、藤原を名乗る前の名前やな。ほな、この古墳の異空間を作ったのも中臣か?

 

「それは微妙ね。ここは、さっきも言ったけど、強い気を発する土地。玄さんが言うように、良くも悪くもエネルギーの強い土地なのよ。だから、人間の思いが形を持ちやすいって言うのかな。人間の強い想念の集合体が形を作り、異空間を生み出したんじゃないかしら。そういう土地の特徴を中臣が利用したっていうか。」

 

うんうん、それを知っていて中大兄が中臣にわざと作らせたか、中臣が「こういう事もできますよ~」的に中大兄に進言したのかもしれんな。

我が子や我が孫を愛し、その幸せを願う気持ちと、我が子や孫を出世させたい欲望を混同させる装置・・・とも言える。

それも、有間さんが剣でぶった切って出血させてくれたから、そんなゆがんだ幻想を生み出す子宮の洞窟も、力を無くしていくのんと違うかな。

 

「君たちが扉を開けてくれて、本当に良かったよ。これで僕の封印が解けたことをみんなに知らせることができる。」

 

えっ?みんなって?

 

「実は、処刑される前に、ある呪術を施しておいたんだ。」

 

第四章  浜松が枝

2013-07-29 13:06:45

 

「僕は生まれつき、鳥や花、木や風と話ができる特殊な能力があったんだ。小さい頃は、それが特別なことだと知らなくて、頭がおかしいとか、精神的な病気だと言われたりもしたよ。だけどね、中臣は僕の能力に気づいて、嫉妬したんだ。・・・なぜなら、中臣はね、術は使えても持って生まれた能力が無かったからさ。古来より伝わる儀式や呪術で自然を使役し、操ることばかりで、自然と話す能力は無かったし、何より、自らが発するエネルギーがとても弱かったんだ。」

 

つまり、しょぼかったってこと?

 

「ハハ、でも甘く見てはいけない。使役する技術は相当なもんさ。現に僕はその罠に引っかかった。

僕がここよりまだもっと南の土地、牟婁の湯に好んで行っていた事から、土地に何か秘密があると睨んだのだろう。僕の父である孝徳天皇が死んですぐに即位した斉明天皇を連れて、中大兄皇子は、わざわざ牟婁の湯まで出向いたんだ。ご苦労なことだ。斉明天皇と中大兄は母子だからね、母と息子とその取り巻きご一行様が牟婁の湯に着いた時、僕は罠にかかったんだよ。

謀反の罪を着せられた僕は、牟婁の湯に連行され、そこで処刑を言い渡された。処刑場所は、ずっと北の藤白というところだ。黄泉の国の力を利用するだけ利用して、僕の処刑場所は黄泉の力が及ばない北まで連れ戻されたのさ。

牟婁から北の藤白へ向かう途中、僕は考えた。処刑はまぬがれない。魂を封印されることも確実だ。だから、黄泉の力がまだある内に、何か封印を解く仕掛けをしなければとね。

そこで、磐代の浜松の木に祈ったんだ。いつか、千年・・・いや二千年先でもかまわない、僕の魂を探し出して、封印を解いてくれと。」

 

「もしかして、あの歌がそうなんかな。教科書にも載ってるような、有名な短歌。」

《磐代(イワシロ)の~ 浜松が枝(ハママツガエ)を引き結び~ 真幸(マサキ)くあらば また還り見む~》

 

おぉっ!如月ちゃん、久々に声出したやんか。僕ばっかり喋らせて、僕、まるで腹話術の人形みたいな気分やったって。(´0ノ`*)

 

「アハハ。で、歌についてはその通りだよ。もう一つの歌とセットになっている。」

《家にあれば~ 笥(ケ)に盛る飯(イヒ)を草枕~ 旅にしあれば 椎の葉に盛る~》

 

「それも有名やわ。学校では、旅の途中やから、ごはん食べるにも器がなくて椎の葉っぱにのせて食べたとかって。それくらい昔の旅は今と違うみたいなニュアンスで習ったかな。」

 

「アハハ ヘ(゚∀゚*)ノ、面白いな。」

 

「有間に笑顔が戻ってきたわ。玄さん、如月さん、ありがとう!」

 

如月ちゃんにお笑いの要素があるとは思えんけどな。(-。-;) で、その歌はどういう意味なん?

 

「まず、『笥(ケ)』っていうのは、茶碗などの器ではないんだ。竹で作った四角い入れ物でね。そもそも、今日か明日にも殺されるのがわかっていて飯なんか食えると思うかい?旅先だから椎の葉っぱしかなかったって、そんなわけないやろ!あ、玄さんの口調がうつった。」Σ(~∀~||;)

 

それって、仏壇に供えるご飯みたいなもんか?

 

「玄さん、なかなか鋭いね。ただ、僕のは、神や仏に祈ったんじゃない。封印されたあとの魂を、どうか探し当ててくれと、木や草に頼んだのさ。そして、封印が解けたとき、再びここに戻って、助けてくれたみんな、木や草たちにお礼を言いにくるって約束したんだ。」

 

「植物はね、鳥や虫たちとお話できるの。そして風ともね。だから、彼らにお願いして情報を集めてもらってたの。すっごく時間がかかったけど、ここの古墳に封じられていることがわかったわ。私はこの木の精霊だから、磐代の浜松に念じられた有間の想いを受け取って、ずっと有間のそばにいたの。だけど、私たち植物に封印を解くことはできなくて。ただそばにいるだけしかできなかった。

それがある日、時空の扉に鍵がかかってしまって、私にも入れなくなっちゃったんだわ。困り果てた私は、扉の鍵を持っている人が来るのを、古墳の上に立って、ずっと待ち続けていたの。」

 

そこへ僕らが来た・・・と。

 

「その通りよ。」

 

この鍵は、如月ちゃんが清姫から預かってるねん。まさか、これで開くとは思えへんかったけどな。

そう言えば、如月ちゃん、清姫の故郷って、牟婁の方って言うてへんかった?

 

「君たちは牟婁へ行くのかい?」

 

とりあえず南に向かうつもりやねんけど。

 

「それなら、牟婁に着く手前に、磐代というところがあるんだが、そこまで僕も同行しよう。磐代の浜松には、封印が解けたことを知らせなければ。約束したからね。お礼を言ったら、またここに戻って、あとはミナミとのんびり過ごすことにするよ。」

 

おぉ~、有間さんと一緒に行けるやなんて、嬉しいな~。

もう僕らも長いことゆっくり休憩したし、そろそろ出発しよか。

ミナミちゃん、元気でな~。

 

「玄さん、如月さん、本当にありがとう。また帰りにここを通ることがあったら必ず寄ってね。行ってらっしゃ~い。」

 

ほな、またな。如月ちゃん、行くで~!

 

 

注;・・・藤白神社(和歌山県海南市藤白)の案内に、こう記されている。

「不幸は自分だけでよい。若者は己の生命を精一杯生きてほしいと皇子の魂は願っている。」

 

《道成寺で、清姫と名乗る蛇の妖怪から預かった鍵で、有間皇子の封印を解いた二人ですが、長い長い旅の物語はまだ途中。この先どんな出会いが待っていることでしょう。》

 

蝶の夢に続く