竹取物語として有名な「かぐや姫」の物語は
舞台が奈良時代であることが判明している。
・・・それも、登場人物の幾人かは実在の人物として特定されている。
かぐや姫に求婚した五人の男の中で、最も卑劣な性格として描かれているのは車持皇子で
これは、母方の姓が「車持」であり、天智天皇の落胤とも言われる藤原不比等のことであろうということが、ほぼ定説となっている。
藤原不比等と言えば、「髪長姫」伝説も不比等に絡んで思い起こされる。
「髪長姫」とは、紀州の漁師の娘が不比等の養女となって
文武天皇に嫁ぎ、首皇子(後の聖武天皇)を生んだあと、心が壊れてしまった宮子姫のことだ。
なんだか、髪長姫がもしもかぐや姫であったなら・・・
と、妄想してしまう。
一介の田舎の娘が、不比等によって都に連れてこられ
「姫」にされ、帝に嫁がされる・・・
しかし、物語の中では
かぐや姫は、かたくなに不比等の求婚を拒み
帝の求婚も拒み、天(月)へと還っていく。
物語の中で、かぐや姫を迎えに下りてきた天人は、
地上のことを「穢れたところ(権力や支配力の欲にまみれた都)」と言う。
天人が持ってきた天の羽衣をはおると、人間らしい情動が消えてしまい
かぐや姫は、何の未練もなく月に還る・・・
地上に縛られ続けた「かぐや姫」が、「髪長姫」だったのではあるまいか。
作者が「髪長姫」のことを知っていたとして
その姫の悲しみを痛ましいほどに感じたとしたら・・・
作者としては、せめて、物語の中だけでも、天(月)に還してやりたかったのではあるまいか。
竹取物語の作者は未詳で、海外(中国のチベット族)にもよく似た伝承があるらしいが
成立した年代や、作者となりうる条件を並べてみると
紀貫之が最も条件に近い人物となる。(他に菅原道真説もある)
紀の国の少女「髪長姫」と、紀貫之が書いたかもしれない「かぐや姫」の物語は
私の中で、幾層にもリンクする。
八月の満月の夜、月に還った「かぐや姫」
還してやれるものなら、還してやりたかった「髪長姫」を偲び
この物語の作者として名を残すことは叶わなかった(藤原氏批判、政治批判が色濃いため)
であろう作者(おそらくは紀貫之)を偲び
新暦八月一日の夜
紀州の自宅にて、これを記す。
2014/8/1